Home アメリカ生活 シアトルの知恵ノート File No. 54 ...

File No. 54 ご家族の安心を守るエステートプランニング入門〜シアトルの知恵ノート

知恵ノート

知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。

ご家族の安心を守るエステートプランニング入門

人生の節目や将来の不安に備えて、あらかじめ財産管理や相続の方法を考えておく「エステートプランニング」。米国では広く利用されている制度ですが、日本人にはまだ十分に知られていない部分もあります。ご家族の安心を守るための基本的な考え方と、エステートプランの主軸となる「リボーカブル・リビング・トラスト」について解説します。

アドビス法律事務所

代表弁護士 マロッツ(古屋)有沙、オフカウンセル弁護士 曾我 愛■ハワイに拠点をもつ総合法律事務所。相続や信託、 事業承継、不動産など、日米をまたぐ案件の法務を中心にサポ ―ト。日本とアメリカ、二つの言語と文化、法律の違いをつな ぎながら、クライアント一人一人の思いに寄り添った解決を目 指す。「難しい法律の話を、できるだけわかりやすく、身近に」 をモットーに日々実務に取り組んでいる。

Advis LLLC

800 Bellevue Way NE., Bellevue, WA 98004
☎808-909-3670、info@advishawaii.com
https://advishawaii.com/ja

近年、生前のうちに「エステートプラン(Estate Plan)」を準備される方が増えています。トラストやエステートプランという言葉を耳にしたことはあっても、「具体的にはどのようなものか分からない」という方も多いのではないでしょうか。

エステートプラン(遺産計画)とは、将来の相続や財産管理に備えて作成する一連の法的書類を指します。万が一の事態に備えてご自身の意思を明確にしておくための重要な準備です。これまで一般的には、遺言書の作成、銀行口座や不動産の共同名義化、生命保険の受取人指定などが一般的な対策とされてきました。しかし、国際化が進む近年では、これらに加えて「撤回可能生前信託(リボーカブル・リビング・トラスト/Revocable Living Trust)」をエステートプランの中心に据える方が増えています。

その背景には、判断能力を喪失した場合の財産管理や、死後に必要となるプロベート(裁判所による遺産承認手続き)といった、時間的・経済的負担の大きい法的手続きを回避したいというニーズの高まりがあります。プロベート手続きは数カ月から場合によっては1年以上を要することもあり、その間、遺族が自由に財産を管理・処分できないケースも少なくありません。また、裁判所を介する手続きである以上、一定の情報が公開される可能性があるため、プライバシーの観点から懸念を抱く方も増えています。

適切に設計された信託を活用することで、判断能力喪失時の後見・保佐手続きや、死後のプロベート手続きといった公開性の高い裁判所での手続きを回避することが可能となります。結果として、手続きを大幅に簡素化できるほか、費用や精神的負担の軽減にもつながります。さらに、裁判所を介さずに手続きを進めることができるため、財産の内容や分配方法などを非公開のまま管理できる点も大きなメリットです。

リボーカブルトラストの主な特徴

1. 設立者が自由に変更・撤回可能

受益者の変更や財産の入れ替え、信託内容の修正などを生前いつでも行うことができ、状況の変化に応じた柔軟な見直しが可能です。また、必要に応じて信託そのものを終了(撤回)することもできます。

2. 生前の財産管理に活用しやすい

将来的な認知症対策として、財産管理を信頼できる第三者に委託する目的で利用されることも多くあります。一方で、設立者自身が引き続き管理者として関与することも可能であり、ご自身の生活スタイルに合わせた管理方法を選択できます。

3. 遺言の代替機能を持つ

死亡後は信託契約の内容に基づいて財産が分配されるため、遺言書と同様の役割を果たします。未成年の子どもがいる場合や、国外に受益者が居住している場合など、個別事情に応じた柔軟な資産承継の仕組みを構築できる点も特徴です。特にプロベートを回避できる点は、迅速な財産移転という観点から大きな利点といえるでしょう。

4. 税務上は「自己の財産」として扱われる

撤回可能な信託であるため、通常は信託に移した財産も設立者自身の所有とみなされます。そのため、節税を主たる目的とした制度ではなく、あくまで財産管理および円滑な承継を目的とする仕組みとなります。

信託は決して富裕層のみを対象とした特別な制度ではありません。資産状況にかかわらず、ご家族を守り、不必要な法的リスクを回避し、ご自身の意思が確実に尊重されるよう、あらかじめ明確なプランを持つことには大きな意義があります。たとえ貯蓄が多くなく、財産の大半が思い出の品や日常生活に関わるものであったとしても、こうした制度を活用することで、将来の手続きに対する安心感が得られます。また、死後にどのように財産が扱われるかについて主体的に関与できることは、ご家族への思いやりの一つともいえるでしょう。

将来に備えることは、決して「特別な準備」ではなく、日々の暮らしを守るための現実的な選択肢の一つです。ご自身とご家族の安心のために、エステートプランについて一度考えてみてはいかがでしょうか。