シアトル駐在日誌
春の拡大版
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
取材・文:磯野愛
#17 山田公正(こうせい)
東京都出身。1987年、日本航空株式会社(以下JAL)入社。シアトル支店・支店長として2018年11月より空港事務所開設のためシアトルに着任。
父親が外交官だったので家族で世界中を転々とする生活でした。私自身はインドで生まれ、幼少期はスイスで過ごし、当時フランス語を話していたそうですが、残念ながら今ではさっぱり覚えていません。その後もニューヨーク、香港と、転校を繰り返す生活の中で、新しい土地で生活を始めることの大変さ、そしてそれを乗り越えた時の発見や、糧となる経験に大きな魅力を感じ、「できるだけいろいろなところに行ける会社」というシンプルな理由で日本航空に入社しました。
最初の配属は伊丹空港の国際線旅客担当(1994 年に関西国 際空港ができる前は、伊丹空港にも国際線が飛んでいました)。ここで顧客対応の基本を学んだ後、東京支店の国内線予約センターで勤務しました。バブル崩壊直後に本社広報部へ異動となり、ポスターの制作やテレビCMの撮影など華やかな現場に立てるかと思いきや報道担当に。リストラ施策なども行われた厳しい時代で、いかつい新聞記者を相手に日夜「切った張った」のやりとりをする日々でした。
その次に勤務したのは国際提携部。現在、日本航空はワン・ワールドという世界を代表する13の航空会社から成るアライアンスに加盟していますが、そういった複数の航空会社のアライアンスへ加盟するメリット・デメリットを検証することが当 時の私の仕事でした。
その後、福岡空港支店勤務を経て、たった2年ながら初の海外勤務となる米州支社空港業務部への赴任のためロサンゼルスへ。さらに本社企画業務部、そしてシアトルに来る直前の勤務地となった、関西空港支店に移りました。昨夏の台風 21号による雨で関空が文字通りの陸の孤島となり、3日間空港に缶詰状態になるという経験も味わいました。
シアトルには昨年11月より着任。シアトル支店長として空港事務所開設に当たりました。日本からは私を含めて8名が駐在し、現地スタッフ含め合計17名の 素晴らしいチームができました。
どこの床屋に行ったら良いか、車の購入はどうしようか、といった生活の中の小さな悩みから、空港や関係各所へのビジネス・ライセンス申請、業務委託会社との交渉まで、新しい土地で0から1を作り上げていくダイナミズムを楽しみながら、目前に迫ったシアトル―成田線の就航に向けて着々と準備を進めています。
昨年末から1カ月以上の政府機関の閉鎖があり、まさかの大雪もあり、余裕を持って組んでいたスケジュールも少し押し気味……。ここからがラストスパートです。シアトルという街の魅力のひとつでもありますが、とにかく人が優しいので、想像していたよりも支店立ち上げのハードルが低いように感じました。一方でニコニコしながらも実は全然事が進んでいなかったり、頼んでいたものと全く違う品が届いたりなど、アメリカらしさ(?)の洗礼もそれなりに受けています。
この場で言えることも言えないことも含めて、これまでたくさんの苦労がありましたが、どんな局面でも根っこの部分では常に「多様性」を尊重できる組織、そして人でありたいと思っています。人それぞれの考え方や生い立ち、ジェンダーによって物事の受け止め方は違います。
広報部では正しい情報をいかに自分が相手に正しく伝えるか、そして結果として相手がそれを正しく受け止めるかを念頭に置いて仕事に励んできました。その後、国際提携部では、こちら側からの一方的な発信で動かすことのできる物事には限界があることを知り、この部署での経験が本当の意味での「交渉」を理解する第一歩になったように思います。
1対1で相手と交渉するときは、どれだけ自分たちに有利に事を運ぶか、自社に多くの利益をもたらすかという観点で話し合いを進めるものですが、複数の企業で何かを成し遂げようとする場合、この姿勢では一歩も前に進みません。日本人は時に、個人の能力や資質に頼り過ぎるところがあるように感じます。欧米の人たちはと言えば、組織作りや、組織がうまく回っていくための仕組み作りに長けています。
「世界で戦っていくにはアライアンスが必要」という目指すべき共通のゴールを見据え、そこからさかのぼって前に進んでいく力や、障壁を取り除いていく能力、そして結果的に大勢の意見をまとめていくプロセスを学ばせてもらい、ここでの経験が私の道しるべにもなっています。
シアトル―成田線へ就航する「ボーイング787・ダッシュ8」という機体は、ビジネスクラス30席、エコノミークラス156席で構成され、「世界一の評価をいただいたエコノミークラスの座席が自慢です。一般的な787のエコノミークラスでは1列に9席が設けられているところ、JALの機体では1列に8席の仕様となっており、ゆとりある足元スペースと合わせて前後左右とにかく広く快適です。
ビジネスクラスは、全席から通路にアクセスできる完全独立のフルフラットシート。快適に眠れるよう、専用に開発されたエアウィーブ社製のマットレスと枕 を導入し、機内食も「世界一贅沢な空の上のレストラン」と銘打ち、特に成田発の便では日本が世界に誇るシェフと最高の食材とのコラボレーションを楽しめます。また、日本航空はシータック空港に強いアラスカ航空やアメリカ全土に広いネットワークを持つアメリカン航空との提携がありますので、アメリカ国内での乗り継ぎやマイルの相互積算と交換の利便性も提供できます。
実はシアトルには個人的にも格別の思い入れがあります。1950年代に外交官として領事館に勤めていた父・中正と、現在は横浜港に展示してある氷川丸で留学のためにシアトルに渡ってきた母・美智子が、出会って結婚したのがこのシアトルでした。ハネムーンはイエローストーンだったと聞いています。今回の赴任は、母親が他界して間もなく受けた辞令だったのですが、両親に「頑張って来い」と背中を押されたような気持ちで、並々ならぬ縁と、何か運命的なものを感じています。
シアトル支店長として私に課せられた大きな使命は2つ。1つは、シアトルを日本人にとってもっと身近な街にすること。もう1つはシアトルに住むアメリカ人にとって、日本をもっと訪れたい場所にすること。訪日バブルとうたわれる昨今ですが、アメリカからの訪日客という観点ではまだまだ伸びしろがあります。ハワイの次に日本から近く、そして日本人に優しい街であるシアトルに、日本企業ももっと目を向けて欲しいので、そのための情報発信に努めていきたいと思っています。おかげさまで、チケット予約も好調です。日本への帰省や旅行に、ぜひご利用をお待ちしています。
3月31日よりJALシアトルー成田線直行便が毎日運行!
心地良い座席で快適な空の旅を
機内食のご紹介(例)
エコノミークラスでは、有名店とのコラボレーション・メニューが楽しめる。写真は成田発JL068便で到着前の2食目として提供される「Air Japanese Soba Noodle 蔦」
東京西麻布「(レフェルヴェソンス)」生江史伸シェフが監修するビジネスクラス洋食メニューの例。成田発JL068便で提供される。