取材・文:中島雅紘
IT の枠を超えてつながる知のサークル
シアトルITジャパニーズ・プロフェッショナルズ(SIJP)は、ITを通じたコミュニティーの発展や技術者支援、次世代の育成を目的とする非営利組織だ。2010年10月に発足し、現在約60名のメンバーが所属している。シアトルのIT企業で働く日本人が中心となり、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、ニンテンドーUSなど、さまざまな企業のエンジニアやIT関連職者が参加している。
伊従総領事も来場し、挨拶を述べた
活動の一環として、子ども向けのコンピューターサイエンス講座「CS in English」を開講し、9歳から15歳の子どもたちを対象にプログラミングやAIを英語で学ぶ機会を提供。ITスキルだけでなく、英語でのコミュニケーション力の育成も目指している。
また、学生や社会人向けに、現役のエンジニアと直接話をしながらIT業界の最新情報を学び、実践的な知識を深められる講演会を開催。さらに、内部交流会を通じてメンバー同士の情報交換やネットワーキングが行われている。
1月18日には、研究者の相互扶助を目的とするシアトル日本人研究者の会と共催で「量子コンピューターの現状と未来 by IonQ」と題した講習会を実施。会場は、フレッド・ハッチンソン・がんセンター。学生から社会人まで約60人が参加し、量子コンピューターの最前線に触れる機会となった。
当日は、IonQのシステムオペレーションズエンジニアの円尾芽衣さんと、相京祐飛さんが登壇し、量子コンピューターの基礎から最新動向まで幅広く解説した。
IonQ社でシニアエンジニアを務める相京さん
イベント前半では円尾さんがIonQの企業紹介や量子コンピューターの仕組みを分かりやすく紹介し、安定稼働のための取り組みや、技術者ならではの苦労とやりがいについて語った。
後半では相京さんがユーザー視点から量子コンピューターを実際に利用する際に必要な知識や、 IonQの今後の展望を紹介。大学院時代からイオントラップ研究を続けてきた経験をもとに、粒子の状態が相関し、遠く離れても同時に影響し合う「エンタングルメント(量子もつれ)」という現象について詳しく掘り下げた。
イベントには、研究者やIT関連企業の関係者だけでなく、学生も参加し交流を深めた
セッション後には、実際の活用や技術に関する質問が相次ぎ、IonQの量子コンピューターが研究室レベルを脱し、実用フェーズへ移行していることがうかがえた。「難しいけど、面白い!」という声が多く、当初2時間の予定だったが、質疑応答が白熱し、さらに2時間延長。交流会を含めると合計7時間にも及ぶ盛り上がりを見せた。
SIJPでは、今後もさまざまなITや最先端技術をテーマにした勉強会を実施する予定だ。興味のある人はぜひ一度参加してみてほしい。さまざまな分野の有識者と話すことで、AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」の先にある世界がもはや空想ではなくなりつつあることを実感できるかもしれない。

2015年にメリーランド州で創業したIonQ社では、社名の由来でもあるイオントラップ方式を採用し、室温でも動作可能な特性を持つ量子コンピューターを開発。シアトルにも拠点を構え、量産体制を強化している。IonQの量子コンピューターはアマゾンやグーグル、マイクロソフトなどの大手クラウドを通じ、誰でもアクセスできる点も大きな特徴だ。
参加費:無料
問い合わせ:contact@sijp.org
詳細:https://sijp.org