取材・文:室橋美佐
日能研による帰国子女説明会は、ニューヨークなど全米4都市で巡回開催され、シアトル地域ではベルビュー市内のレイクヒルズ図書館で行われた。当地開催には、日能研の海外加盟校で、日能研と河合塾が提携運営する自学自習プログラム「ガウディア」をカリキュラムに取り入れている四つ葉学院が協力。小学2~6年生対象の無料オープンテストも同校で実施された。
「グローバル人材の育成が重要視される今、外国で多様な経験をした帰国生の受け入れを拡充する学校が増えています」と話すのは、日能研関東の小嶋 隆(たかし)代表取締役社長。「日能研の塾生にも帰国生は増えていて、日本の子どもたちへの良い刺激になっています」と続ける。2018年には、首都圏エリアにある約300校の中高一貫校のうち201校が帰国生募集を行った。日本国外の名門大学進学を視野に入れる私立校も増えているという。
日能研推定によれば、小学6年生で中学受験をする割合は首都圏で約20%(2018年現在)。東京都内であればその割合はさらに高く、中高一貫私立校の人気は高まる一方だ。そもそも、私立中学校へ進学させるメリットは何なのか?
「中学と高校の大事な6年間を、一貫した教育環境で過ごせることは大きな利点」と小嶋社長は説明する。進学校であれば、6年かけて学ぶ課程を5年で修了し、高校3年の1年間は大学入試対策に専念させるなど、各学校により大学受験に向けた独自カリキュラムが組まれている。大学付属校であれば、大学受験がないため、学業以外にも幅広い分野の経験を積み重ねる環境が整う。「それぞれの教育理念や注力分野を明確に掲げているのも私立校の特徴」と小嶋社長。「子どもの個性をよく踏まえたうえで、どのような6年間を過ごして、その先は何を目指すのかを親子で考えて学校選びをして欲しい」と提言する。
説明会には数十名の保護者が参加。自身が小学生だった約20~30年前とは一変した中学受験事情や帰国生入試のポイントなどに耳を傾けていた。
日本の学力が再び上昇!
日本の子どもたちの学力が、いわゆる「脱ゆとり」を経て、再び伸びている。説明会第2部で講演した五十嵐さんが、経済協力開発機構(OECD)が15歳を対象に3年毎に実施する学習到達度調査(PISA)の推移を紹介。2000年代に日本のランキングが急下降したことで話題になった同調査だが、2015年の結果では、数学的リテラシーや科学的リテラシーの分野で、日本はOECD加盟35カ国の中で1位に舞い戻った。
※表は、帰国子女説明会第2部資料から抜粋。情報元は経済協力開発機構(OECD)
※OECD非加盟でPISAを実施しているシンガポール、香港、台湾などは除く
中学受験最新事情
第1部「盛り上がる帰国生の中学受験事情」
講師は営業本部第1エリア部長の須田英毅さん。近年の入試問題傾向として、選択・穴埋め問題ではなく記述問題を中心に出題する学校が増えていると説明。知識のインプットのみならずアウトプットの訓練も重要になっていることを強調した。学校説明では、2020年の大学入試改革への不安からMARCH系大学付属校※の人気が上昇していることや、女子高・男子校の共学化が進んでいることなどを取り上げた。また、御三家と呼ばれる開成・麻布・武蔵、桜蔭・女子学院・双葉に加えて新たに人気を高めている進学校として、渋谷教育学園、洗足学園、豊島岡女子学園などの学校名も挙がった。
※首都圏にある私立大学、明治大学、青山大学、立教大学、中央大学、法政大学の総称。
第2部「帰国生だからこそ必要な親子のコミュニケーション」
子ども未来進学センター所長の五十嵐正樹さんが、子どもの学習欲を伸ばす「親業」メソッドについて講演。具体的な中学受験事情の解説が中心だった前半からはガラッと変わり、小学生の親であれば誰でも参考になるコミュニケーション術を紹介。その一例は、「今日の算数、全然できなかったよ」などと子どもがこぼしたら、「算数が全然できなかったのね」と、まずはそのままの言葉を優しく返して、気持ちを受け止めていることを示すなど。学校や塾で常に新しい発見に触れる子どもにとって、親は「安全基地」になるべく、安らげる環境を作って欲しいと説いた。