┃変わる家族像と戸籍制度の限界
何らかの事情で出生届が出されないままとなっている、「無戸籍児・者」が司法統計から推計して少なくとも1万人はいると言われ、新聞報道などでも話題になった。女性の再婚禁止期間や、貧困などで出生届が出されないことなどが原因にあるという。国は多くの無戸籍者の存在を確認していながら、十分な対策をとっていない。
2016年から2017年にかけ、蓮舫議員の「国籍開示」問題でも「戸籍」がこれまでにないほどクローズアップされることになった。住民票、マイナンバー制度との整合性から、その制度疲労が明らかになりつつあるにもかかわらず、戸籍を廃止できないのはなぜなのか。『日本の無戸籍者』(井戸まさえ著、岩波新書)では、天皇制も含め、戸籍制度が現在まで抱える問題やその矛盾点について、明治憲法から新憲法になり、戸籍制度の何が変わって何が変わらなかったかについて解説している。戸籍の変遷を語る際に避けては通れない差別の問題についても触れている。
著者自身、離婚後300日以内に前夫を父親としない子どもを授かったことで、我が子を(一時的とはいえ)無戸籍児とせざるを得ない状況になったという。新憲法の下、民法が改正されて70年経つ今も、戸籍制度に残るほころびを明らかにしていく。さまざまな理由で制度からはじかれる「無戸籍者」を生むような戸籍制度のほころび、「バグ」は、日本社会に根強く残る「身内意識」を維持し、見せしめ的な役割を果たすために、あえて放置しているのではないか。著者はそう見ている。
| 毎日、家族に料理を作らなければいけないのか
『料理は女の義務ですか』(阿古真理著、新潮新書)では、社会に進出する機会が増え、多忙になった現代の日本女性が、家事を負担に感じながらも、「家族のため」に料理をやめないのはなぜか、という問いに始まる。著者は家庭料理や暮らし、女性の生き方をテーマに執筆活動を続けている。
年々クオリティがあがる外食・中食(総菜や持ち帰り弁当など)産業、進化を続ける加工食品、食材と調味料、レシピがセットで宅配されるミールキットの開発などにより、家庭料理の負担は減ると思われたが、実際はそうではないことも多い。料理研究家が提案するレシピの数々、SNSに投稿される自慢の料理など、日々の食事の選択肢や食に関する情報は増えていく一方だが、毎日続く料理に疲れや負担、理想の料理と現実とのギャップを感じる人は多い。味、栄養バランス、経済効率、そして家族への「愛情」。日々の「家庭料理」に求め過ぎてきたものを、そろそろリセットすべき時ではないか、としている。
| 中年パラサイト・シングル
『底辺への競争/格差放置社会ニッポンの末路』(山田昌弘著、朝日新書)の著者は、20年ほど前、「パラサイト・シングル」という流行語の名付け親。親世代と同じような中流生活を維持できるかどうか。いま、「下流」に転落しないための過酷な競争がどの世代にも起きていると感じているという。
あえて結婚を先延ばしにし、親と同居(パラサイト)したままでいることで「リッチな独身生活」を謳歌していた20年前の若者「パラサイト・シングル」たち。アラフォー世代となった彼らは今どうなっているか。著者の予想をはるかに上回るほど非正規雇用の割合が増え、結婚できない、親から自立できないどころか親の年金を頼りに暮らしている「中年パラサイト・シングル」が増え、その状況はますます深刻になってきている。
多くの人々が中流から転落するのでは、という不安を抱えたまま一生を送る社会ではなく、社会保障への「負担増」を将来の「安心が増える」ためのものとして、国民に納得してもらい、そのための新しい方策をとるべきではないかと訴える。
※2017年10月刊行から
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