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外国人が見た日本、日本人の自意識

┃ 外国人が見た日本、日本人の自意識

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』
J・ウォーリー・ヒギンズ(光文社新書)

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(J・ウォーリー・ヒギンズ著、光文社新書)は、新書サイズではもったいないほどの、贅沢で濃密な写真集である。著者のヒギンズ氏は1927年生まれのアメリカ人で、鉄道写真家として「鉄道ファン」の間では有名人の、いわば元祖「撮り鉄」。駐留米軍軍属として来日後は、国鉄の国際部門に所属し、90代の今なお現役でJR東日本の顧問を務めているという。

ここにまとめられた昭和30年代の382枚の写真は、全国津々浦々で撮影された6,000枚以上の写真から選りすぐられたもの。当時としては大変に贅沢品だったため、日本ではほとんど使われていなかったカラーフィルムで色鮮やかに残されている。友人の影響で興味を持つようになったという路面電車や、当時まだかろうじて現役だった蒸気機関車に夢中になる、著者自身の影も見え隠れするようだ。

『外国人が見た日本/「誤解」と「再発見」の観光150年史』(内田宗治著、中公新書)は、明治から現代まで、外国人観光客が見てきたもの、日本人が見せようとしてきたものの変遷をたどる。

日本の魅力とは何か、外国人観光客は何を求めて日本にやって来るのか。日本人にとっては「なぜそこが?」と意外に思うほど知られていないような場所にも、外国人に人気のスポットがあることを紹介し、現在の観光事情やその課題点にも触れていく。

『「武国」日本/自国意識とその罠』(佐伯真一著、平凡社新書)は、日本は「サムライの国」である、という自国意識について検討している。現代の私たちは、日本を「平和的で、穏健な、おとなしい国である」と感じている人が多いのではないかという。その一方で、男子サッカーの代表チームを「サムライ・ブルー」と呼ぶように、戦国時代や江戸時代の武士を描く大河ドラマが人気を集めるように、「サムライの国」という自国意識も持っている。私たちが「伝統」と思っているものは、古来の伝統なのだろうか。自国意識はどう育てられてきたのか、という変遷をたどっていく。

 

┃「パパ活」とは?

『パパ活の社会学』
援助交際、愛人契約と何が違う?
坂爪真吾(光文社新書)

毎月刊行される新書のタイトルから、耳にしたことがない「新語」や、今流行しつつある新しい社会現象を知ることも多い。最近の例では、『パパ活の社会学/援助交際、愛人契約と何が違う?』(坂爪真吾著、光文社新書)にある、「パパ活」という言葉である。パパ活とは、「若い女性が年上の男性とデートをして、その見返りに金銭的な援助を受けること」だという。多くの人は本書のタイトル通り、「昔流行した、愛人バンクや援助交際と何が違うのか?」と疑問に思うのではないだろうか。

男性のほうが10歳~20歳ほど年上というように、パパ活を成立させている要因は、男女間の経済格差と精神年齢の格差である。不安定な仕事にしか就けない若年女性のセーフティーネットになり得るのか。男女それぞれの意見を紹介する。同じ著者による『「身体を売る彼女たち」の事情/自立と依存の性風俗』(坂爪真吾著、ちくま新書)は、性風俗で働く女性たちの抱える課題と悩みを切り口に、現代の若者たちが広く共通して抱えている問題を明らかにしている。著者は、風俗業界で働く女性たちに向けた、無料の生活相談、法律相談事業にも取り組んでいる。さまざまな事情から「昼間の仕事」に就けない、就かない女性たちだが、生活保護などの社会的支援を受けるよりも、搾取されることの多い「身体を売る」働き方のほうを選ぶ、というのはなぜなのか。一見不合理な選択に見えても、「プライベートに踏み込まれたくない」といった、彼女たちなりの合理的な選択の結果によって「生活保護を選ばない」ことが多い、と指摘している。

『ペットと葬式』
日本人の供養心をさぐる
鵜飼秀徳(朝日新書)

『ペットと葬式/日本人の供養心をさぐる』(鵜飼秀徳著、朝日新書)は、葬儀や墓など、従来のしきたりや形式にとらわれず葬祭が簡素化していく風潮の昨今、一方で盛んになって来ているペット向けの葬祭ビジネスと、それらが求められる背景を分析する。従来、「犬猫(畜生)は人間とは別」と一線を引いて来た仏教界だが、時代の求めに伴いペットの供養についても柔軟に対応しようとしている。ペットの供養のみならず、人形やペットロボット、針などの身近な道具まで、生物でも非生物でも、魂が宿るとされてきたあらゆるものを「供養」してきた日本人独特の文化について考えていく。今、供養と呼ばれているもののほとんどは本来の意味の「供養」というよりは、イベントに過ぎないのではないか、という指摘も興味深い。

※2018年10月刊行から

 

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。