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重要な公文書の保存と公開

┃無形民俗文化財という観点でみる「大嘗祭」

『大嘗祭』
天皇制と日本文化の源流
工藤 隆(中公新書)

天皇陛下が退位される日が2019年4月30日に決定し、翌日の5月1日に、新天皇の即位、改元となる。新天皇による皇位継承関連の儀式のうち、最も重要とされる「大嘗祭(だいじょうさい)」は同年11月に執り行われる見込みだという。「即位の礼」、「剣璽等承継(けんじとうしょうけい)の儀」といった皇位継承の行事の後、改めて大嘗祭を行う必要がなぜあるのか。『大嘗祭/天皇制と日本文化の源流』(工藤 隆著、中公新書)は、「秘すべきこと」とされ、謎が多い儀式のルーツをたどり、日本人のアイデンティティーにどうかかわっているかを論じている。

現天皇が即位した時には、「大嘗祭を国費(税金)で行うのは現憲法の政教分離規定に違反する」という声も上がったという。著者は、次の改元の際には、さらに「大嘗祭不要論」が出てくることも想定している。憲法に記載されていれば問題なし、明示されていなければ憲法違反、という思考停止に陥るのではなく、1300年余りの伝統を持つ超一級の無形民俗文化財として「天皇文化」は存続させるべきと、「大嘗祭」を後世に継承していくことの重要性を説く。

『城の科学』
個性豊かな天守の「超」技術
萩原さちこ(ブルーバックス)

近年、全国各地の城を訪れる人が激増し、城めぐりの魅力を伝える本も数多く出版されている。『城の科学/個性豊かな天守の「超」技術』(萩原さちこ著、ブルーバックス)は、城、とりわけ圧倒的な存在感をもつ天守の構造に注目した1冊。姫路城・松本城・松江城など国宝指定されている5つの城の天守を中心に、構造や素材、装飾などから、ひとつとして同じものはないそれぞれの城の魅力とその見所を解説している。

| 重要な公文書の保存と公開

 

多くの人々の人生に多大な影響を与えた大事故の責任は誰にあったのか。『東電原発裁判/福島原発事故の責任を問う』(添田孝史著、岩波新書)は、国や東京電力の責任を問う裁判の主な争点である「津波を予測して事故を避けることはできたのか」ということについて、新たに公表されたデータや内部資料をもとに検証する。

裁判の重要な証拠となり得る原子力関係資料、関係者に対する調書の公開・非公開をめぐる問題など、都合の悪い公文書が「消去」されないよう注視していく必要性を説く。事故の教訓を後世に伝えていくために、原発事故関連の資料の収集・保存や展示が福島県内各地で進められている。このような動きに併せ、裁判記録についても、後世に残すべき貴重なものだ、と保存を呼びかけている。

『戦争調査会』
幻の政府文書を読み解く
井上寿一(講談社現代新書)

『戦争調査会/幻の政府文書を読み解く』(井上寿一著、講談社現代新書)は、1945年11月に幣原喜重郎首相によって立ち上げられた国家プロジェクト、「戦争調査会」が残した資料全15巻を丹念に読み解く。

8月15日の「玉音放送」の直前から、中央官公庁街では公文書を焼却する煙が立ち上がっていたことは今ではよく知られている。その一方で、「敗戦の原因及実相調査の件」と名付けられた国家プロジェクトがあったことはあまり知られていない。戦争責任を追及する東京裁判が始まろうとする中、戦争調査会が独自に追及しようとしていたものは何なのか。戦争の失敗を繰り返さないよう、幣原首相始め、委員たちが残した資料から、戦後70年経った今の私たちは、何を読み解くべきだろうか。とりわけ2017年は、自衛隊の南スーダンPKO日報問題、森友学園・加計学園問題などが表面化した年でもあり、公文書というものの価値とそのあり方について、改めて考えて欲しい、と著者は訴えている。

『不死身の特攻兵/軍神はなぜ上官に反抗したか』(鴻上尚史著、講談社現代新書)の著者は劇作家・演出家として第一線で活躍するひとり。ある本の記述で、「9回特攻に出撃して、9回生きて帰ってきた人」佐々木友次氏のことを知る。佐々木氏が90歳を過ぎて存命だとわかり、さまざまなつてをたどり面会し、聴き取った話をもとに小説『青空に飛ぶ』として刊行した。

本書は、体当たりの命令に背き生き延びた元特攻隊員の言葉を、多くの日本人に伝えたいと、小説には載せられなかった内容をノンフィクションとしてまとめたものである。戦後72年、多くの関係者や当事者が亡くなり、貴重な肉声は失われていく。しかし、著者は、自分たちのような戦後生まれの世代が、自分の視点から特攻のことを書くことは、関係者が亡くなった後でなければ不可能だったかもしれないという見方も持っている。ようやくこれから冷静に「特攻」を考えられるようになる時がきたと考えることもできるのでは、としている。

※2017年11月刊行から

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連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。