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「失われた20年」と平成史

┃「失われた20年」と平成史

『1985年の無条件降伏』
プラザ合意とバブル
岡本 勉(光文社新書)

来年の天皇陛下退位の日をもって平成は31年で終わる。各分野で平成やその前後の現代史を振り返り総括する新書が、これから続々と刊行されるだろう。『1985年の無条件降伏/プラザ合意とバブル』(岡本 勉著、光文社新書)は、それまでの行き過ぎた円安を円高に転換する1985年の「プラザ合意」を、1945年の無条件降伏に続く日本現代史の第2の転換点と位置付ける。終戦からたった11年で戦前の経済水準にまで回復した日本が、バブル崩壊後は「失われた20年」と言われるほど長期不況から立ち直れなかったのはなぜか。プラザ合意からアベノミクスまでの30年、日本に何が起きていたのかを、新聞記者としての視点から振り返る。

『21世紀の長期停滞論/日本の「実感なき景気回復」を探る』(福田慎一著、平凡社新書)も、バブル期以降の日本経済の停滞とその背景について検討している。現在の日本経済の閉塞感をどう解消していくか、ヒントを探る。『平成デモクラシー史』(清水真人著、ちくま新書)の著者は日経新聞で政治部や経済部等、国政の最前を目撃してきたジャーナリスト。「政権交代」と「首相主導」をキーワードに、政党政治と政策決定の変容を記している。『平成トレンド史/これから日本人は何を買うのか?』(原田曜平著、角川新書)は、平成の30年間を6つの期間に分けて考察し、「経済」「消費」「トレンド」といった観点から時代の変化を「ざっくり」振り返る。価値観やライフスタイルの多様化が進んだ平成は、「昭和から脱して新しい時代になろうと必死でもがいた時代」では、と評している。次の元号の時代は「昭和のいいところを拾い直す時代」になるという著者の予想、果たしてどうか。

『9.11後の現代史』
酒井啓子(講談社現代新書)

「紛争やテロが多く危険な地域」と見なされがちな中東、アフリカ地域は何が起きて今この状態になったのか。『9.11後の現代史』(酒井啓子著、講談社現代新書)では、中東、とりわけイラクの政治を専門とする著者が、現代世界のさまざまな地域で9.11以降に起きているできごとを解説。他者を受け入れないこと、他者を追い出すこと、2つの「不寛容」が跋扈(ばっこ)している、と著者は指摘する。「自国ファースト」が蔓延する状況をどう乗り越えればよいかを考えていく。

┃未来を占う日本の諸問題

『技術の街道をゆく』(畑村洋太郎著、岩波新書)の著者は、大事故が起きた場合、関係者の責任追及だけで終わらせず原因を究明し、再発を防ぐために事故から学ぶ姿勢を大切にする「失敗学」の提唱者だ。福島第一原発の事故調査委員会の委員長も務めた。本書は、「技術力が高い」と言われてきた日本の技術が苦境に立たされているのはなぜか、その理由を探りにさまざまな生産現場を訪ね歩いてきた記録である。現場を大切にする著者が今、足繁く通うのは、紆余曲折の結果造ることになった八ッ場ダムの建設現場で、日本で造られる大きなダムはおそらくここが最後という。巨大ダムのコンクリートの最新工法から、話題は有田焼に使われる原料の石や技術へと飛んでいく。古来の技術が現代の最先端技術とつながっているのでは、という著者独特の発想力やアイデアは、もちろん長年蓄積された経験や知識あってのものだろう。

『英語教育の危機』
鳥飼玖美子(ちくま新書)

『英語教育の危機』(鳥飼玖美子著、ちくま新書)は、英語教育の専門家が学校英語教育を中心に、教育改革の方向性についての問題点を訴える。2020年から施行される新学習指導要領には、「中・高生は英語の授業は英語で行う」、教員養成は見切り発車でも「小学校から教科としての英語教育を導入」などの方針が含まれるが、現状よりさらに英語力の低下を招くなど深刻な「改悪」になると警告する。「世界はグローバル化している」という題目により、日本の英語教育は「グローバル化に対応する」ということを目標に改革を続けてきた。新学習指導要領もその方向だが、現実の国際社会ではグローバル化とは逆の方向に動き出している。先が不安定な「不確実性」の時代、これからの日本の教育に求められるものは何か、英語に限らず将来世代の育成を考えるために重要な視点を提供する。

『医者の逆説』(里見清一著、新潮新書)は、現役の医師が、医療に何を求め、何を諦めるべきかの解決策を考える。限られたコストと人的資源で、今のように最新医療の成果を享受し続け、子孫の世代に膨大なツケを押し付けている現状はどうにかしなくてはいけない。「命に値段はあるのか、その値段はたとえば年齢によって違うのか」「医療のコストを次世代に先送りしないために何を諦めるべきか」、こうした話をすると「医者にあるまじき発言」と非難されることもあるという。しかし、誰にも不利益が出ない形式だけの議論では解決にはならない。医者が言わなくて誰が言うのか、と「不愉快」な真実を訴え続けている。

※2018年1月刊行から

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連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。