┃国民投票法の致命的な欠陥
憲法改正をめぐる国民投票は「圧倒的なカネと広告に支配されることになる」と警告するのが『広告が憲法を殺す日/国民投票とプロパガンダCM』(本間 龍、南部義典著、集英社新書)だ。著者のひとり、本間氏は大手広告代理店の博報堂出身であり、広告代理店を通じたカネの動きを知り尽くしている。海外の多くの国では国民投票に対しての広告が原則禁止となっているが、日本では広告規制が現状ではほとんどなく、有償CMが流し放題になっていると指摘する。
「このまま国民投票が行われたらどうなるか」ということを、国民投票の諸制度について詳しい南部義典氏と共にシミュレーション。より公平な形を作るルールはどうあるべきかなど、具体的に提案をしていく。
近年、LGBTという言葉が知られるようになり、性的少数者に関わる話題を耳にする機会が増えてきた。日本でもようやく、同性カップルのパートナーシップを認める法的制度などが動き始めつつある。それでも、性的少数者である当事者たちは、「本当の自分を知って欲しい」という気持ちと、「知られたら拒絶されるのでは」という気持ちの中で葛藤し続けているのは昔も今も変わらないようだ。『カミングアウト』(砂川秀樹著、朝日新書)では、カミングアウトをめぐり、当事者と当事者の家族たちの心の葛藤を、性的少数者である自らの経験も踏まえて、いくつかのストーリーとして紹介する。
カミングアウトとは、自分が性的少数者であることを誰かに話すということ。カミングアウトされたことを本人の同意なく誰かに伝えてしまう「アウティング」は、時に自殺などを引き起こすほど深刻な問題だということを知っておきたい。
これからの時代、教育現場で性的少数者についてどう扱っていけば良いか、子どもから、あるいは生徒からカミングアウトを受けた場合の対応をどうするかなど、社会全体で配慮すべき課題も紹介されている。
人はなぜサイコパスになるのか。サイコパスは治るのか。最近では「サイコパス」を扱った本が多く出され、ちょっとしたブームにもなっているという。『サイコパスの真実』(原田隆之著、ちくま新書)は、犯罪心理学の専門家が、最先端の知見に基づき、サイコパスの正体に科学的に迫ろうとした1冊。サイコパスとは、ひと言でいうと「良心を欠いて生まれた人々」である、と著者は言う。映画や小説などで扱われることも多く、冷徹な知能犯、連続殺人事件の犯人のような特殊な例を想像することが多い。しかし、圧倒的大多数のサイコパスは、犯罪者ではないことがほとんどで、企業の経営者、政治家、アーティスト、科学者など成功者にも多いタイプとも言える。一見、魅力的であるが他者に対しては傲慢な、「マイルド・サイコパス」について特に詳しく紹介している。
今のところ、サイコパスの治療法や予防法は見つかっていない。表面的にカリスマ的魅力があり、響きの良い、強い言葉を操るようなサイコパス。彼らを政治的指導者として選ばないようにすること。周囲ができることはそれくらいかもしれないとしている。
┃過去に立ち返り、日本の現状と未来を考える
『日本統治下の朝鮮/統計と実証研究は何を語るか』(木村光彦著、中公新書)は、1910年から1945年まで日本が朝鮮半島で行ったことは「収奪」だけだったのか、と改めて問う。日本統治と、今日に至る韓国の発展、北朝鮮の国家建設とのつながりはどうなのか。また、朝鮮統治は日本にとって経済的にどのような利益・不利益があったのか、経済学の視点からその実態を検証していく。
帝国日本が残した産業遺産を見ると、電力・鉄道・港湾などのインフラ、鉱物資源、工業設備の多くは、北朝鮮に存在し、それが今日の核開発の礎ともなっているのではないか、と著者は指摘している。最新の経済統計データを基に、日本の遺産が韓国・北朝鮮両国に与えた影響を検討する。
AIやブロックチェーンの台頭で、アメリカや中国を中心に、ビジネスモデルの大転換が起きている。『「産業革命以前」の未来へ/ビジネスモデルの大転換が始まる』(野口悠紀雄著、NHK出版新書)では、世界経済の現状と未来を理解するためには、産業革命「以前」の大航海時代のヨーロッパに立ち返ることが必要だ、としている。
新しい技術を活用して新たな産業革命が起きようとしている今、大きく立ち後れている日本が、この現状を脱するためにはどうしたら良いか。国、企業、個人それぞれが、考え方、行動を変化させていくべきだと主張している。
※2018年4月刊行から