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「働き方改革」で得をするのは一体誰だ

┃「働き方改革」で得をするのは一体誰だ

『「働き方改革」の嘘』
誰が得をして、誰が苦しむのか
久原 穏(集英社新書)

『「働き方改革」の嘘/誰が得をして、誰が苦しむのか』(久原 穏著、集英社新書)の著者は、政府主導で進められている「働き方改革」について詳細に検証する。一見、「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金の導入」など、働く人にとってメリットが多いと思わせるような内容だが、実態は必ずしもそうではない。政府がなぜ「働き方改革」を言い出したのか。本来労働問題を扱う厚生労働省ではなく、経営サイドに立つ経済産業省主導で進められてきたことからも、その狙いは明らかだと指摘する。「働き方改革」という名目で雇用制度を無理矢理につくり変えるのは政府のなすべきことではない、と厳しく批判している。

『中高年に効く! メンタル防衛術』(夏目 誠著、文春新書)の著者は、精神科産業医として40年の長きにわたって日本の職場を見てきている。ここ10年ほどの間、日本の会社の職場環境は大きく変わり、職場の空気、人間関係の変化がメンタルヘルスにも大きな影響を与えていると指摘する。

日本の職場はかつてと比べて格段に「労働密度」が上がり、人手不足により余裕がない状況にある。業務とは関係のない「雑談」が消え、「雑務」が減ったことで、職場にゆとりが消え、メンタルヘルスから見ても非常に懸念すべき状態にあると指摘する。

『50歳からの孤独入門』
齋藤 孝(朝日新書)

『50歳からの孤独入門』(齋藤 孝著、朝日新書)は、人生の後半戦、50歳からの日々をより良く生きるために必要なことについて、著者自身の実感を込めて提言する。「現実と上手に折り合いをつけること」「もう競争には参加しなくてもいいと思うこと」「孤独や退屈に慣れること」などを挙げる。

著者が「あまり軽く考えないほうがいい」とあえて取り上げているのが、中高年の恋愛について。中高年の恋愛、特に50代を超えた男性は、自分が「モテない」ということを認識し、自分の立場をしっかり見つめ直したほうがいい、と指南する。

┃2025年、中国の「紅船」は襲来するのか

『二〇二五年、日中企業格差』
日本は中国の下請けになるか?
近藤大介(PHP新書)

『二〇二五年、日中企業格差/日本は中国の下請けになるか?』(近藤大介著、PHP新書)は、中国問題に詳しいジャーナリストが、アリババ、テンセント、ファーウェイ、DJI等々、世界市場を席巻しつつある中国IT企業の最先端事情を分析している。本書では、習 近平政権が推進しようとしている、「2025年までに中国が世界NO.1の製造強国になる」ことを目指す「中国製造2025」という計画の全貌を解説する。

この計画がもし実現すれば、中国はアメリカを超える経済強国となるが、その時日本はどうなるか。ビジネスの世界で、「考え抜いてから進む」日本に対し、「常に爆走しながら考える」中国式で、IT技術を駆使した製造業やAIをフル活用したサービスは、私たちの想像をはるかに超えるスピードとスケールで進化を遂げている。キャッシュレス化が遅れている日本市場を開拓し、日本企業の買収を本格化させようとしている、かつての黒船ならぬ「紅船」の襲来に、日本はどう対処したら良いか、考えさせられる。

『中国経済講義/統計の信頼性から成長のゆくえまで』(梶谷 懐著、中公新書)は、世界第二位のGDPを誇る中国経済の現在と今後の課題を分析する。

序章からずばり、「中国の経済統計は信頼できるか」と題し、「中国のGDP統計は擬装されているのではないか」、「実際は世界第三位ではないか」という疑問に対し、詳細に解説していく。著者の見解としては、現在の中国の経済統計には、「過大評価」「地方レベルでの統計数字の虚偽報告」などさまざまな点で精度に問題があるのは事実だが、あくまで「誤差の範囲」である、としている。

日本と中国の経済関係を考える際に、「中国GDP統計はデタラメ」と思い込むのではなく、冷静に議論するための材料として知っておくべきだとしている。

※2018年9月刊行から(次号につづく)

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。