毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。
┃期待される新しい天皇像と皇室の未来
5月下旬、改元後初となる国賓・アメリカ大統領を迎え、新天皇、新皇后両陛下の外交力に早くも注目が集まった。『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(西川 恵著、新潮新書)は新聞記者である著者が、日本にとって最強・最大の外交資産と言って過言ではない「皇室」の役割について論じている。著者は、平成の両陛下が積み重ねてきた皇室外交には、「和解」と「慰霊」というおふたりの思いが色濃く投影されてきた、と指摘する。令和の時代、皇室外交はどのような形になるのか、新天皇はこれからどのような天皇像を形成していくのか、その手がかりを、皇室外交の歴史を振り返りながら考察している。
『番記者が見た新天皇の素顔』(井上茂男著、中公新書ラクレ)の著者も、新聞社で長く皇室担当記者を務めた皇室ジャーナリスト。新天皇が皇太子の時代から間近で見守ってきた立場から、節目節目での発言とその背景、発言に隠された思いに迫る。
『院政/天皇と上皇の日本史』(本郷恵子著、講談社現代新書)は、202年ぶりとなった生前退位と、上皇という存在について、その歴史から学ぶ。著者は、日本の天皇家が長きにわたって皇位継承を可能にしてきたのは、「天皇」の運用が非常に柔軟だったからではないか、中でも画期的だったのが、「院政」の開始だったのではないかと指摘する。
現在の皇室は、超高齢化・少子化、男女の役割の問題など、きわめて深刻な課題を一般の日本社会と共有している。「万世一系」とうたわれるような皇位継承をどのような運用で維持してきたのか。これまでの歴史を振り返ることにより、天皇制の未来を、今こそ真剣に議論すべきではないかと訴える。
┃「フェイク」に晒される危機
今、インターネットの世界にあふれるさまざまな「フェイク」が、個人や企業を操り、情報や資産を奪おうとしている。『フェイクウェブ』(高野聖玄、セキュリティ集団スプラウト著、文春新書)は、誰もが被害者になり得る、サイバー攻撃の多様な手口を紹介する。インターネット上のさまざまな危機をゼロにすることは不可能に近い、と著者は警告する。日々受け取る膨大な情報の「向こう側」を想像し、リスクを少しでも小さいうちにコントロールし、大きなリスクにつながらないように心がけるしかない。
『なぜ人は騙されるのか/詭弁から詐欺までの心理学』(岡本真一郎著、中公新書)は、人はなぜ騙されるのか、つまり人はなぜ判断を誤るのかを社会心理学の観点から分析する。詐欺や悪質商法のテクニックはどんなものがあるのか。私たちは広告・宣伝にどう踊らされているか。政治家の詭弁にはどのようなことが隠されているのか。蔓延するフェイクニュースを信じてしまう心理はどういうものなのか。人が複雑な情報をどう処理していくかという心理的なメカニズムや、それを利用した説得や誘導のテクニックを知ることは、騙されないためには非常に重要だ。世に蔓延するさまざまな「フェイク」へ対処できることはまだありそうだ。
神が人類を創ったとする「創造論」を支持し、「進化論は科学者のでっちあげ」と主張する人々がいる。トランプ大統領がその筆頭だが、地球温暖化の研究に根強い疑問を投げかけ、対策を先延ばしにしようとする人々もいる。
科学技術の発達に、一般の人々は適応できていないのではないか。新聞社の科学記者による『ルポ 人は科学が苦手/アメリカ「科学不信」の現場から』(三井 誠著、光文社新書)は、科学大国であるアメリカでのこうした根強い「科学不信」を中心にその背景を取材したものである。
科学者の側が、「知識がないことが問題」「事実は事実だ」という上から目線では、社会に広がる科学不信は払拭できず、懐疑的な人々との溝は深まるばかりだ、と指摘する。科学的知識のあるなしではなく、その人の考え方を支配している「心情的なバイアス」にも注目して、科学をめぐるコミュニケーションのあり方を探る。
※2019年5月刊行から(次号につづく)