┃ ヒスパニック系だけではない「不法移民」
『移民国家アメリカの歴史』(貴堂嘉之著、岩波新書)では、そもそも「移民国家とは?」という原点に戻り、アメリカの歴史を移民から読み解く。本書で著者は特に「包括」と「排除」の両方の歴史を持つ、日系人を含むアジア系移民に着目している。戦後のアジア系移民は、全体としてはそれまでの偏見を克服し、社会的成功を勝ち取った成功者も多い。
もちろんアジア系アメリカ人の全てが成功者と言うのには無理がある。「不法移民」はヒスパニック系だけではなく、その1割ほどはアジア系が占めている事実をまずは確認しておくべきだ、と著者は記している。
読売新聞ロサンゼルス特派員による『ルポ 不法移民とトランプの闘い/1100万人が潜む見えないアメリカ』(田原徳容著、光文社新書)は、現在のアメリカのルポ。トランプ大統領の就任後、強制送還、入国制限の実施で「不法移民」に対する圧力が強まっている。著者は、南のメキシコ国境、北のカナダ国境を取材し、そこに集まる人々の声を聞き取る。日系人強制収容の悲劇の歴史が、75年目の今どう語り継がれているか。トランプの大統領令を「75年前の歴史の再来」と警戒し、差別的対応を改めさせようという声の中心に、多くの日系アメリカ人たちがいることを示唆している。
『限界の現代史/イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序』(内藤正典著、集英社新書)は、第二次世界大戦後、かろうじて世界を安定させてきたシステムと秩序の「限界」が来ている現状を、歴史と地理の両面から解説していく。
┃ 懸念される健康格差の拡大
環境により健康寿命が違う、いわゆる健康格差の拡大が明らかになりつつある。その差は、本人の努力だけでなく、社会環境の影響や、子ども時代の貧困も大きな影響を及ぼしていることもある。『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の著者は医師。予防医学の視点から、健康格差を拡大させないために必要なまちづくり、「暮らしているだけで長生きできるまち」の実現に向け、さまざまな対策を提唱する。
超高齢社会に向け、健康長寿を延ばすために老若男女誰もが手軽に取り組めるのが「歩く」こと。しかし、足に合わない靴を履いて歩くと、健康寿命を延ばすどころか逆に縮めることにもなりかねない、と警鐘を鳴らすのが『健康長寿は靴で決まる』(かじやますみこ著、文春新書)である。足に合わない靴を長年履いていると、骨格の崩れやひずみが足だけでなく腰や膝、股関節の負担となり、高齢になるにつれ歩行や日常生活にも支障が出てくる。糖尿病を患っている人には、靴ずれをきっかけに足の潰瘍や壊死、下肢切断につながるリスクもある。
3D計測による足型の作成、在庫を持たないネット販売、特注のソールなどで、個々の足にフィットした靴を、手に届く価格で販売することは不可能ではないはず。大量に製造して安く売る(多くは破棄される)という、これまでの靴業界のビジネスも大きく変えていく時代なのでは、としている。
『ビンボーでも楽しい定年後』(森永卓郎著、中公新書ラクレ)の著者は、昨年還暦を迎えた。中学・高校の同級生が一斉に定年を迎える年になると、現役時代と比べ所得格差が一気に拡大しているのを実感しているという。こうした定年後格差が今後いっそう広がると予想される中、「年金の範囲内」で生活する術をどう整えていくか、お金がなくても楽しめる生きがいをどう見つけていくか、具体的な提案をしていく。著者が『年収300万円時代を生き抜く経済学』を刊行してベストセラーになったのは2003年。あれから15年、著者の予測は当たるどころか、年収300万円もあれば、「ビンボー」とは見なされない時代にすでになっているのである。
『100 万円で家を買い、週3 日働く』(三浦 展著、光文社新書)は、さらに若い世代の「お金をかけずに豊かで幸せな生活を実践」しようとする人々の事例。著者は2005年に刊行した『下流社会/新たな階層集団の出現』で、「1億総中流社会」はじきに消滅し、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、いずれもが低い「下流」層が日本でも増えていることをさまざまなデータから示して大きな反響を呼んだ。本書では、モノや土地の所有にこだわらず、地位やカネだけに価値を見出すのではない、新しい層の若者たちの価値観や彼らの生活に目を向けている。
※2018年10月刊行から