┃高齢化・人口減少時代のまちづくり
高齢ドライバーによる交通事故が大きく報道されることが増えている。『高齢ドライバー』(所 正文・小長谷陽子・伊藤安海著、文春新書)は、急速に車社会へと転換した日本が抱える、「高齢ドライバー激増」という深刻な課題を取り上げる。高齢ドライバーの事故と聞くと、運転ミスや認知症の影響が第一に考えられがちだが、急な意識喪失、発作など健康要因からくるものもかなり多いという。しかし、これまで事故を起こした当事者の持病や健康状態に関しての調査・検証は十分ではなかった。同書では、事故を起こした高齢ドライバーの交通事故の特徴、発生要因を分析し、有効な対策を講じることが緊急の課題と主張している。
また、高齢ドライバーの身体能力、運転能力を機器を用いて定期的にチェックし、トレーニングやアドバイスを行う試みを紹介し、継続してトレーニングを受けている場合、運転能力の維持に効果があるという結果も出ている。
研究が進んでいる自動運転や運転支援技術など、高齢ドライバーの運転をより安全にするためのさまざまな方策や、運転免許証の自主返納を促す取り組みの効果も紹介する。欧米の先進諸国に比べて、急激に車社会となった日本は歩道の整備が遅れていて、「自動車優先社会」となってしまっていることも著者はこれからの課題として提示している。
日本の都市は、経済成長、人口増加、地価上昇という状況で戦後数十年成長し続けてきた。『人口減少時代の都市/成熟型のまちづくりへ』(諸富 徹著、中公新書)は、これから先に間違いなく訪れる、人口減少と急激な高齢化、低成長に直面する日本社会のさまざまな危機について考える。交通ネットワークや上下水道などの公共インフラ維持には膨大な費用がかかり、破産寸前の自治体も多い。人口減少を過度に恐れるのではなく、住み良い都市づくり再編の新しい機会が到来したとポジティブにとらえていくような、戦略的な「まちづくり」について検討する。
『QOLって何だろう/医療とケアの生命倫理』(小林亜津子著、ちくまプリマー新書)で追求しているのは、「よく生きるとは何か」、人生100年時代に必須となる生命倫理の課題。最先端医療の恩恵をどの時代よりも享受できている現代の日本人は「幸せ」かどうか。医学の進歩、とくに延命医療の進歩そのものが、命の「質」とは何か、という葛藤をもたらすようになってきている。生きることの価値について、具体的に考えていくための入門書。
┃3.11後に考えるリスクへの備え
東日本大震災から7年、震災や原発事故に関する新書は激減しているが、2冊の関連書籍の発刊があった。『原発事故と「食」/市場・コミュニケーション・差別』(五十嵐泰正著、中公新書)は、3.11後の「食」を通じて、社会の分断がどう生じているかという非常にデリケートな問題を扱っている。
福島を始め、被災地の現状について関心は低下しているが、福島産品に付いて回る「何となく避けたい」というネガティブなイメージはそのまま定着してしまっている。福島県産食品の置かれた現状について分析し、リスク・コミュニケーションはどうあるべきだったのか、事故直後の報道などを振り返る。
著者は、内部被曝の影響を重視して食品の産地を選び、自主的な避難まで選択した人たちにとって、さまざまなコストを払って来た努力が、科学的にみれば必要ではなかったと、簡単には認められなくなっている場合も多いのではないか、と指摘する。そうした人たちに対して、「科学的事実」を振りかざして、数年間の努力を否定し、不安を切り捨てるようなスタンスで接するのは逆効果ではないか、とも語る。価値観が多様化する社会で、異なるリスク判断や異なるライフスタイルを持つ人同士、どう共生するべきかという観点から検討する。
津波災害について最先端の情報を網羅しているのが『津波災害 増補版/減災社会を築く』(河田惠昭著、岩波新書)である。本書の旧版は2010年12月に刊行され、その約3カ月後に東日本大震災が起きた。津波災害の危険性について警鐘を鳴らした著者自身、「書いたことが現実に起こり、大きなショックを受けた」というくらいだ。3.11後に新たに得られたデータと調査研究を踏まえ、大津波についてそのメカニズムや被害の状況を書き加えている。南海トラフ巨大地震を始め、「必ず来る」と想定される大災害の被害を最小限にするにはどう備えていけば良いか、改めて読むべき1冊と言える。
※2018年2月刊行から