現役の通訳・翻訳家が、日々の現場で感じる日米の文化の違いや最新の翻訳事情など、英語を通して見えてくる「ちょっとした気づき」を紹介するコラムです。
第1回 Sorryの代わりに〇〇を使うアメリカ人
「アメリカ人は謝らない」とよくいわれていますが、本当でしょうか。おおむね正しい、というのが筆者の見解です。だからといって、詫びる気持ちがないわけではありません。表現の仕方が異なるのです。次の文章を見てください。これは、筆者が米系大手航空会社に苦情を申し立てた際に受け取ったメールの冒頭部分です。最初に英語の自動返信メールが届き、その後、日本のカスタマーサポートから連絡がありました。
照会番号XXXXXXXXこの度は、過日6月21日、弊社XXX便の遅延にてXXXXX様ご一行様へご迷惑をお掛けしましたことお詫び申し上げます。また、現在Eメールでのお問い合わせが大変混み合っているため弊社からの返信が遅くなり申し訳ございません。
英語版はいきなりThank youから始まりますね。苦情を送って「ありがとう」と言われるのは、日本人の感覚だと違和感ありありです。「ここはお詫びの一言がほしい!」と感じるのが正直なところではないでしょうか。ところが、アメリカ人は実によくThank youを使います。ほぼどんな場面でも耳にしますよね。日本語の「すみません」に相当するといってもいいでしょう。
たとえば、誰かを待たせてしまった場合。日本人であれば、第一声は「待たせてすみません」ですが、アメリカ人で「I’m sorry that I kept you waiting.」と言う人は少ないと思います。ほとんどの人が「Thank you for waiting.」と言うのではないでしょうか。
その背景には、言われる側にも「謝られるほどのことではない」という気持ちがあるのでは、と筆者は感じています。Sorryという語には強い同情や申し訳なさが含まれるため、言われた方は「そんなに同情されなくても……」という心理が働くのかもしれません。Sorryを違和感なく使える場面は、誰かの死や病気、けがなど、明らかに不幸な状況や、悪いことをして親に叱られた子どもが謝る時など、比較的限られています。それ以外の場面では、「ありがとう」と言われた方が、「ちょっといいことをしたな」と無意識に感じられ、アメリカ人にとってはうれしい響きなのだと思います。
筆者も通訳の現場で、日本人が「Sorry, sorry」と連発するのをよく耳にしますが、それが時に「卑屈」に聞こえることも。知らず知らずのうちに、ある種の上下関係が生まれてしまうのです。日本人の感覚では、「えっ、この場面で『ありがとう?』」と思うようなときでも、アメリカ人相手には臆することなく、にっこり笑って「Thank you」と言ってみましょう。嫌な顔をされることは、きっとないはずです。












