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身近な紅葉を撮る

06 「カメラ女子」なんてトレンドを生み出すほど写真好きの私たち日本人。シアトルで、紅葉をパシャリ! というのも悪くないのでは? 今回は写真家のブライアン・チューさんに、紅葉の撮影方法や注意点を、教えてもらった。

曇り空も演出のひとつ

01 シアトルの秋は雨や曇りの日が多いが、「天気によって雰囲気ががらりと変わって、それなりの味が出るんですよ。」とブライアンさん。「雨が降った時は、接写レンズを使って雫の乗った紅葉や濡れ落ち葉を撮影すると、晴れの日には撮れない良いものが写せるんです。」川を流れる落ち葉は、シャッタースピードの変化で効02 果を狙ってみる。シャッタースピードを速くすると水に浮かぶ葉をくっきりととらえられるし、遅くすれば、川の流れと葉の動きを芸術的に収めることができる。「曇りの日は自然光が柔らかくなりますから、人物の撮影に最適ですよ。構図次第で、紅葉を背景にした美しいポートレート写真が撮れます。」

良い写真を撮るには、カメラも良いものでなければいけないのでは? と思ったのだが、ブライアンさんは「それは違いますね。もちろん、高いカメラには良い機能がついていますが、性能より大事なことは、自分が求める被写体を探すことです。写真はアート。見たものをどれだけ忠実に写真に写すことができるかではなく、見たものを自分がどのように見せたいのか、が重要なんです。」そしてそのためには、自分が撮りたいと思う色やアングルを、自らの目と足を使って見つけ出すことが大切だという。04

日本の美に魅せられて

2006年からジェット・プログラムで三重県多気町に滞在していたブライアンさんが写真を本格的に始めるきっかけになったのは、2008年のお兄さんの結婚式。「初めの頃はデジカメを使っていたんですよ」という彼が、これを機に一眼レフを購入。日本では、写真を撮ることが一般に浸透していることや、公共交通機関が発達しているおかげで国内の移動が容易だったことも手伝い、一眼レフを購入してからは、各地に旅行して、日本の様々な風景をカメラに収めるようになった。「三重県名張市の赤目四十八滝や御在所岳ではとてもきれいな紅葉が撮影できましたよ。あとは、伊勢神宮の内宮もよく訪れましたね。」

プロフィール写真 2010年にアメリカへ帰国してからも、写真への情熱は冷めることなく、自分が育った街シアトルをもう一度探検したいと思うようになったブライアンさん。カメラを通して、日常の何でもなかった風景が新鮮なものになり、現在も撮影の多くはシアトル市内やその近郊で行っているという。

そんなブライアンさんがすすめるのは、なんとスマートフォンのカメラ。「スマホのカメラは性能もいいし、それにいつでも持ち歩くものでしょう? ふとした瞬間にいつでも写真を撮れるのがいいですよね。」街中の思わぬ場所で自分好みの紅葉を見つけたら、スマホのカメラでパシャリ!

自分の目で見る

紅葉撮影の際の注意点を聞くと、「メディアから簡単に情報が手に入る今、『紅葉の写真はこうでなければいけない』と固定観念をもってしまう方が多いですね。」写真を撮る時には、今まで使ったことのなかったカメラの機能を試したり、ペットと紅葉、子どもと紅葉などといった、自分なりの発想の趣くままに撮影することで、満足のいく一枚と巡り合える。また、フェイスブックやインスタグラムで共有した写真の「いいね」の数にこだわりすぎて、自分の撮りたいものを写すということを忘れがちになる傾向も気になるそうだ。「『いいね』がゼロでも構いません。自分が満足できる写真が撮れればそれでいいんです。」

ブライアンさんは、「同じ場所で一つの被写体を何枚も撮ったりするので、よく一人でプランを立てずに出かけます。周りに気兼ねなく思う存分撮れますからね。」ただし、人気スポットでの撮影や、時間帯に制限がある場合には、駐車場の有無など、事前に計画を立てていったほうがよいとアドバイス。

ブライアンさんおすすめの紅葉撮影スポットはワシントン大学のキャンパスだそうだ。「大学院生として毎日通っていたので、ここにはたくさんお気に入りの場所があります。キャンパス内の桜の木は、日本と違って葉が散らないで深い色に紅葉するんです。」日本庭園もブライアンさんお気に入り。手入れが行き届いた庭に、池、木、花、小道と撮影に絶好の条件が整っている。他にも、イーストサイドのコール・クリーク・フォールズ(Coal Creek Falls)ではハイキングを楽しみながら、インターナショナル・ディストリクトとビーコン・ヒルを繋ぐホセ・リサール・ブリッジ(Jose Rizal Bridge)からは夕日やダウンタウンを背景にした色づく木々が見られると教えてくれた。

「私たちは日々の忙しさに追われて視野が狭くなっています。スクリーンを見るのではなく、顔を上げて周りを自分の目で見ることで、今まで見逃していた『これだ!』と思える景色が見つかるんです。」そう言ってブライアンさんが、最後にあげたおすすめスポットは、自宅のそばの通りや街中だ。ブライアンさん自身、これからの楽しみのひとつが、通勤途中のフェアヴュー・アヴェニュー(Fairview Ave.)の並木通りで紅葉を見ること。

これから秋本番。いつどこで、どんな紅葉に出会うかわからない。カメラやスマートフォンでいつでも写真が撮れる準備をしておこう。

日本の大学留学などを経て2006年から4年間、三重県で国際交流員として活躍。日本中を旅して「日本三景」から「富士山からのご来光」まで様々な景色を自分の目とカメラで心に刻んだ。米国帰国後、改めて「自分の故郷」を探索。ノースウエストの自然と優雅さに惚れ直す。現在、兵庫県ワシントン州事務所で文化・教育プログラムマネージャーを務めるかたわら、よりよい写真家になるため頑張っている。

brianchuphotography.com

雨を狙って上がりの紅葉

文・写真:奥村薫

SONY DSC
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紅葉写真を撮るならば雨上がりが良い、とあえて言おう。夏が終わり、雨が降ると条件反射的に悲しくなるのがシアトル人の常である。しかし、黒く湿った樹の幹、葉から滴る水滴といった秋の風情が絵になる。そして幸運にも晴れたのなら、黄金の葉の明るい輝きの中、写真など撮らずにただその光を浴びていよう。日本庭園ーK3

ベルビュー植物園八尾ガーデン

紅葉するのはモミジが中心のため、地味だがそれも日本の風情か。ノースウエストの植生を取り入れて、華やかさはないものの和む空間となっている。植物園の和風のあづま屋や園の奥に伸びるトレイルで、のんびり秋の日を過ごすのも良し。撮影:2011年10月22日(場所などの情報は11ページの公園リスト参照)

シアトル日本庭園ベルビュー植物園-K2

八尾ガーデン同様にこちらも地味系の紅葉だが、グラデーションが渋い。紅葉を見にきても鯉や亀と遊ぶのに夢中になってしまう人も多い。ちなみに受付で買える鯉の餌は、一日あたりの個数が決まっている。昨今、鯉もメタボ対策されている。

同園の写真家会員になればメンバーのみの特別公開時間に、三脚持ち込みで撮影できる。撮影:2011年10月16日(場所などの情報は11ページの公園リスト参照)ベルビュー植物園-K1

奥村薫プロフィール

シアトル在住、IT関連のキャリアを持つ他、写真・ビデオ撮影は玄人はだし。ソロの舞踏家としても活動し、シアトルの暗黒舞踏コミュニティーに大きく貢献している。11月22日にグリーンウッドのTaoist Studies Institute(225 N 70th St, Seattle, WA)で『Yoikachi-Gusa 宵待ち草』のパフォーマンスを行う予定。詳細:www.kaoruokumura.com