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YouTubeの人気者「バイリンガール」吉田ちかさん

ちかさんa 「不安定な職だからこそ、無限の可能性がある」。そう語るのはYouTubeチャンネル「バイリンガール」の吉田ちかさん。「先のことを決めると、選択肢を狭めてしう」と、将来像を描かない彼女の言葉には迷いがない。大手コンサルティング会社を辞職してまで彼女が選んだ職業は「You Tuber(ユーチューバー)」だ。

ユーチューバーという仕事

オンライン動画クリエイターとも称されるユーチューバーは、動画配信サイトYouTubeに動画をアップさせて、主に広告収入を得ながら生活する人たちのことだ。吉田さんは、「バイリンガール」という日本人向けの英会話番組を配信している。日本ではなかなか知ることのできない生きた英語やニュアンスの違いや、第2の故郷であるシアトルの観光スポットを紹介して、そこで使われる自然な英会話を動画にしている。「ただのレッスンじゃ、まず自分が飽きちゃう」と、時には友だちとの外出を動画にしたり、長年見てきた人も飽きないようなコンテンツ作りをしている。

ユーチューバーは組織に縛られず自由に生活でき、すぐに広告収入で生活できると考える人も少なくないようだ。しかし現実は、「収入のことだけを考えてはじめた人は続けていくのが大変のようです。だって思いの外大変な仕事です。趣味の延長線や、本当に好きでないと続けるのはとても難しいのかも」

コンサルティング会社で仕事をする傍ら、動画を不定期にアップしていた。上司はユーチューバーという仕事にも理解があり、仕事と並行してできる恵まれた環境にあったせいか、3年目にして知名度が出てきた。

日米の違い

勤務していた企業は外資系でありながら、日本人だけのプロジェクトに配属された。職場では、日米の違いを肌で感じることがあったという。日本人の仕事の仕方はリスクを片付けてからやる、いわば石橋を叩いて渡る方法だが、言い換えれば失敗の少ない仕事をするとも言える。一方で、アメリカはそういった細かい部分は見逃しがちだが大胆に全体像を見て、問題にぶつかりながら作業を進めていくという。吉田さん自身は米国人式のほうが合っているそうだ。グローバル化を目指す日本企業に対して吉田さんは、「日本は立場や周りの目を気にしすぎてると思う。まず上の立場の人達が変わって部下の意見を尊重しないと、オープンマインドな雰囲気にはならないですよね」と述べた。

ワシントン州で育った生い立ち

ワシントン州北部、シアトルから車で2時間の港町アナコータスで幼少期を過ごし、ワシントン大学卒業まで米国で半生を送った。幼い頃から好奇心は旺盛だったが、子どもの頃は個性が発揮できなかったと話す。小学校時代に、海苔で巻いたおにぎりをクラスメートから気持ち悪がられたこともあったという。「小学校から高校時代にかけて、自分は他の子たちとどこか違うって思うことはあったし、みんなと一緒だったら良かったのになぁと思うこともあった。周りアメリカ人ばかりでキャラが強かったし、私は自分の個性を出せていなかったと思う」。その性格が変わったのは、アジア人が約25%を占めるワシントン大学に入学してからだ。「大学ではアジア人がいっぱいいて、それでもいいんだと思うようになって気持ちが楽になったの」

日本に帰国したのは大学を卒業してから。その後、大手コンサルティング会社に就職した。社会人になって日本の友人の少なさに気付いたのがきっかけで、積極的に交流会に参加したりアメリカにはない「合コン」にも参加。時には自ら主催したこともあったという。日本語については、「最初は早くてついていけなかったし、ビジネスシーンに使われる専門用語はよくわらなかった」と言うが、取材中の会話は、両国語どちらも流暢にこなすバイリンガルだ。その背景には母親の努力があると言う。小学校から高校までずっと週に1度、アナコータスからベルビューの日本語補修学校まで車で往復4時間もかけて送り迎えし、家では英語を混ぜて話すことを許さなかったそうだ。「『日本語でしゃべってるんだから、日本語で返しなよ』なんて言われたこともありました」と当時を振り返って笑う。

バイリンガールという仕事

2013年12月に会社を辞職したのは「生活していける」と確信したから。それからは動画作成にそれまで以上の時間を費やすことができるようになった。「視聴者の興味をひく内容や、シェアしたくなるような内容といったものを、より意識するようになりました」。こだわるだけでは自己満足になってしまう。「自分が見て納得いくものと見ている人が納得いくものの2つがあって、レベルが違うと思う。だから、これ以上やってもほとんどの人は見ないだろうっていうところは妥協します」。見ている人にとって役に立ち、面白いコンテンツを作ることが仕事だと言う彼女は「英語が軸であってYouTubeは発信媒体のひとつ」とこれから発信スタイルが変わる可能性を示唆した。

ゴールを持たずとも今やっていることは将来必ず何かに役立つと彼女は自信を持って話す。「ただしそれには条件があって、一生懸命やること」と「今」を生きる彼女らしい一言だった。

Chika’s English Lessons
www.youtube.com/user/cyoshida1231

取材・文:福原祥太 写真提供:吉田ちか