子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
2歳までに決まる愛着スタイル~安全基地を作るために~
子どもやティーンにとって、心の通じ合った友人は、学校生活を送るうえでなくてはならない不可欠な存在です。けれども、仲の良い友だちができにくい、トラブルに巻き込まれやすいという子どもも中にはいます。実は、こうした対人関係のパターンは、親子の関係を繰り返していることが多いのです。
心理学の権威であるジョン・ボウルビィ医師は、赤ちゃんが養育者とのやり取りで作り上げる感情的な結び付きのことを「愛着」と定義し、生後6カ月から2歳頃までの間に形成されるとしています。自分で歩けるようになる1歳前後に、子どもは自分の親を心の「安全基地」とみなし、親がそばにいると周りのものを探索し始めます。そして、不安になると親の元へ戻り、安心したらまた外の世界を探索するのです。この養育者の反応と子どもの生まれ持った性格が相まって、子どもは対人関係に対する基本的なパターン「内的作業モデル」を身に付け、大人になっても無意識に活用していきます。愛着のスタイルには次の4つのタイプがあります。
- 安定型:子どものニーズを敏感に察知して愛情深く接する親に育てられ、心に確固とした安全基地が築かれています。自己肯定感が高く、他者も信頼でき、成長すると積極的に人間関係を築いていきます。
- 回避型:子どもが泣いても無視し、体に触れることのない育児放棄に近い親、もしくは逆に過干渉やしつけに厳し過ぎる親から育てられると、自分も他人も信頼することができなくなります。自分の気持ちがはっきりわからず、感情表現が苦手に。大人になると、一見自立しているように見えますが、実は人と深く関わることが怖くて他者と距離を取りがちです。
- 不安型:親の都合や気分で子どもへの対応がころころ変わる一貫性のない子育てにより、親の対応が予測できず、見捨てられるかもしれないという不安を常に持っています。自分の気持ちよりも親の顔色や反応をうかがって行動し、自分の欲求が満たされないため自己肯定感は低く、人からの否定的な反応に敏感で傷付きやすくなります。成長すると、満たされない気持ちや不安感から逃れるために、友人や恋人に依存し、周囲に過剰に適応してストレスを溜め込む傾向があります。
- 無秩序型:精神状態がきわめて不安定な親や、虐待する親から育てられたことで、安心な場所であるはずの家庭が逆にとても危険な場所になっている状態。回避型と不安型が混ざり合い、親に甘えたいという気持ちと怖くて逃げたいという相反する感情が、子どもを混乱させて無秩序な行動パターンを生み出します。親に甘えたかと思うと、急に攻撃的もしくは無関心になり、深刻なケースでは愛着障害の診断が下されることも。大人になり親と同じような行動を繰り返す傾向にもあります。自分の親のようになりたくないと思いつつ子どもを虐待したり、大切な人を攻撃したり脅したりと、感情の抑制ができずに周囲を振り回します。
2~4は、子どもの心に安全基地が築かれなかった不安定な愛着スタイルです。そうならないように、子どもの心に安全基地を築くにはどうすればいいのでしょうか。まずは、子どもの要求にしっかり応え、不安に感じているときには「大丈夫だよ」、「大好きだよ」という安心、愛情のメッセージをたくさん送ってあげることです。
大人になってからでも、安全基地を自分で作ることは可能。回避型の場合、自分で意識して人に甘えたり、頼みごとをしたりするといいでしょう。また、不安型の人は「自分は自分、他人は他人」と他者との境界線を引き、相手に頼る前にひと呼吸置いて、自分でできることはやってみて、自他共に完璧を求めないようにすること。自分に対しても子どもに対しても、無条件の愛情を注いであげることが安全基地を築くためには大切です。「今この瞬間、ここにいるだけで100点満点」、「私はひとりぼっちじゃない。私には私がついている」と毎日言い聞かせて、心の安全基地を自分で育ててあげましょう。