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柔道家 中村美里さん

柔道家
中村美里さん

今回鈴木芳美園長の友人である柔道選手を通じて将来的に通訳なしで世界各地を指導して回りたいという美里さんの約3カ月のシアトル滞在が実現ホームステイしながら英会話を学んでいる

9月、めぐみ保育園に柔道界のスターがやって来ました。北京、ロンドン、リオデジャネイロ各大会で柔道女子日本代表となったオリンピアン、中村美里さんです。美里さんが参加するクラス初日に同園を訪れ、柔の道を究めるまでの話を聞きました。

取材・文:ハントシンガー典子

私が柔道を続けられた理由

小学生の頃から格闘技に興味を持っていて、最初は極真空手を体験しました。「楽しい!」と思ったのですが、母親から「危ないからキックはやめて」と懇願されてしまって。それなら別の格闘技にしようと、合気道などあれこれ試したところ、柔道に強く引かれて習い始めました。当時から小柄だったので、小さい人が大きい人を投げる姿を見てカッコ良く感じたんです。

ところが進学の際、地元の中学には柔道部がないとわかりました。実は私、「じゃあ柔道はやめて、ソフトボール部に入ろうかな」くらいに考えていたんです(笑)。そんな時、相武館吉田道場の先生が「頑張ったら強くなれるから」と、道場近くの中学を勧めてくれました。そこから、道場で寮生活を送りながらの本格的な稽古の日々が始まりました。

最初の頃は1日1日を乗り切るのがやっとで毎日必死。周りに自分より弱い人がいなかったんです。私はそれほど強くなくて、東京で最高3位くらい。中学1年では全く結果を残せませんでした。それが、中学2年で全国大会優勝という結果を出し、一気にモチベーションが上がりました。中学3年での進路指導では、「女子柔道部のある三井住友海上への就職を考えて、会社に入りやすい高校に進学しては」との先生からのアドバイスがあり、そこを目指すことに決めました。

シアトル滞在中は武道館道場で週2回シアトル道場で週1回稽古に参加している写真は芳美園長の息子2人も通う武道館道場での練習の様子

柔道で世界制覇

世界を意識し始めたのは高校1年の時。講道館杯という年齢制限なしの全国大会を制し、続く福岡国際女子選手権という国際大会でも優勝したのがきっかけです。それまでは目の前の相手を倒すことしか考えていなかったですね。国際大会を経験して初めて、世界レベルの相手と対戦しても自分が通用すると認識できたんです。

次の転機は、三井住友海上に入って社会人1年目で出場した北京五輪。銅メダルを獲得し、「平成生まれ初のメダリスト」と騒がれましたが、何がそんなにすごいのか自分ではよくわかりませんでした。でも考えてみたら、自分以外は誰もそう呼ばれることはないですし、メダルを手にできて良かったと、あとから思いました。

翌年の世界柔道選手権大会優勝の際には、先に北京を経験していますし、緊張はしませんでした。出場メンバーはほかの国際大会と変わらないし、場所が違うだけ。私が出場したのは大会2日目でしたが、初日に先輩が優勝を決めていて、それをテレビで観ていたんです。その時、「いいなぁ。私も世界一になって表彰台に立ちたい」と思ったのを覚えています。

歓迎会で五輪出場時の道着姿で銅メダルを披露する美里さん今後文化の日イベントなどコミュニティーイベントにも登場予定

柔道の魅力を伝えていきたい

2018年のアジア大会で初めて、テレビ解説者を務めました。今年開催された東京世界柔道選手権でも、全日本柔道連盟が会場で行う「音声ガイド」解説を担当。ずっと競技しかしてこなかったので、ちょうど何か新しいことをしたいと思っていて、解説の仕事はとても楽しい経験でした。周りからの評判も良いので、柔道の普及につながるよう、今後も指導活動と併せてやっていきたい仕事のひとつです。

私の場合、親も「自分で好きなようにやりなさい」という調子で、何でも自分で決めてきました。親が決めてしまうと「親が言ったから」と逃げ道ができますが、自分で決めると覚悟と責任が生まれます。親や先生は子どもに選択肢を与えながらも見守りに徹して欲しい。柔道だけでなくほかのことをやってもいいと思います。子どもはむしろ、柔道をもっと好きになれるはずです。

柔道の魅力は、(柔道の創始者である嘉納治五郎が柔道の極意として唱えた言葉)「精力善用」、「自他共栄」。相手がいてこそのスポーツなので、思いやり、尊敬、努力、礼儀を大切にするところも美点です。勝つ負けるより、一緒に強くなることが先。そんな素晴らしいスポーツ精神を持つ柔道を、ひとりでも多くの人に好きになって欲しい。それが今の私の目標です。

ゲスト体育講師としてめぐみ保育園ぞう組の45歳児にストレッチや柔軟運動などを中心に指導保育士さんは明るく楽しい人たちばかり子どもたちもみんな優しく寄ってきてくれてうれしいと美里さん

中村美里
日本の女子柔道家。中学2年の時に全国中学校柔道大会44kg級で優勝。以来、ワールドマスターズ、グランドスラム、アジア大会など数々の大きな大会で素晴らしい成績を収める。2009年、2011年、2015年の世界柔道選手権大会で金メダル、五輪は2008年の北京大会、2016年のリオジャネイロ大会で銅メダルを獲得している。

ソイソース編集長。エディター、ライター、翻訳家として日米で18年の編集・執筆経験を持つ。『マガジンアルク』『日本経済新聞』『ESSE オンライン』など掲載媒体多数。2017年から現職。