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夏休みに子どもが犯罪に巻き込まれないために知っておきたい「ダークウェブ」の存在〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

夏休みに子どもが犯罪に巻き込まれないために
知っておきたい「ダークウェブ」の存在

「ダークウェブ」の存在をご存知ですか? 「ダークウェブ」とは、グーグルやヤフーなどの通常の検索エンジンではアクセスできないウェブサイトのことです。匿名性が高いことから、麻薬をはじめ、ハッキングツール、小児性愛者向けのマニュアルにいたるまで取引され、人身取引の温床にもなっており、悪質かつ危険なサイトが多数存在しています。

私たちが通常アクセスしているウェブサイトは「サーフェスウェブ(表層ウェブ)」と呼ばれており、全体のウェブコンテンツのわずか4%にしか過ぎません。残りは「ディープウェブ(深層ウェブ)」と言われる検索エンジンにインデックスされていないコンテンツです。これらのほとんどは、企業や学校などのイントラネットや顧客・加入者向けサービスをはじめとするIDとパスワードで保護されたコンテンツです。こうしたディープウェブの中でも、さらに特別なツールを使わないとアクセスできない匿名性のきわめて高いものを「ダークウェブ」と言い、全体の6%を占めると言われています*①。

ダークウェブにアクセスする一番有力なツールは「トーアブラウザ(Tor Browser)」と呼ばれるブラウザで、米海軍調査研究所により2000年代初頭に開発された匿名性の高い通信規格「オニオンルーター(Tor:The Onion Router)」を実装しています。このブラウザは何層にもわたって暗号化されているため動作が遅く、検索もダークウェブに対応したダックダックゴー(DuckDuckGo)などの特定の検索エンジンを使う必要があります。ダークウェブは、そのすべてが有害なサイトではなく、言論の自由が制限されている独裁国家の政治活動家やジャーナリストなどが安全に情報を共有するためのプラットフォームとして機能しているものもあります。

2009年に匿名で決済が行えるビットコイン暗号通貨が登場したことにより、ダークウェブ上での闇取引が急増しました。違法商品の典型例としては、住所や電話番号、社会保障番号などがセットになった個人情報、銀行や各種サイトの認証IDとパスワード、偽造クレジットカード、違法薬物、銃器、児童ポルノコンテンツなどが挙げられます。個人情報は大人だけではなく、未成年者のデータも大量に出回っています。2021年のNBCニュースの調べによると、米国の小学校や高校1,200校以上の生徒の個人情報がダークウェブで出回っていることが明らかになりました。*② 一旦流出したデータは削除できません。小学生の息子名義でカードや車のローンが組まれた被害も出ているほか、性犯罪やサイバー犯罪にさらされるリスクが大幅に上がることも危惧されます。

子どもをダークウェブから守るために、私たちができることは何でしょうか。まずは、ダークウェブの存在を知らせて、絶対に関わらないことを教えましょう。興味本位でアクセスするだけで多数のマルウェアに感染し、個人情報を抜き取られ脅迫された事例もあります。怖がらせる必要はありませんが、年齢に合わせてインターネットには危険な場所もあることをしっかりと認識させ、ペアレンタル・コントロールや監視アプリをつけるとよいでしょう。

また、子どもがコンピューターを使っている様子をよく観察し、怪しい行動がないか確認しましょう。たとえば、人が通るとスクリーンやブラウザを閉じたり、深夜や早朝に誰かとやり取りをしてたり、見慣れないブラウザやアプリを使用している場合は要注意。説明のつかない収入があったり、何かを隠すような行動が見られた場合には、懸念を正直に伝え、子どものブラウザ履歴、検索ワード、スマホのテキストや写真を見せてもらいましょう。子どもへの郵便物があれば、配送元を確認し、子どもがパッケージを開ける時に中に何が入っているか確認するようにします。

目的は、子どもの行動をコントロールすることではなく、子どもを守ることです。子どもにダークウェブについてどう思うかを尋ね、家族で話し合い、子どもの価値観や道徳感を再確認しましょう。自ら適切な判断ができるよう導くと同時に、問題や悩み事があったらいつでも親に相談するよう促すことで、親子の信頼関係を築く機会にしていけるといいですね。
参考文献

① 個人情報5ドルで売買、「ダークウェブ」驚きの実態
https://toyokeizai.net/articles/-/737931?page=2

② Hackers are leaking children’s data ― and there’s little parents can do
https://www.nbcnews.com/tech/security/hackers-are-leaking-childrens-data-s-little-parents-can-rcna1926

参考記事: 2023 Was The Worst Year Yet For Data Breaches in Every Way―Except One
https://www.pcmag.com/articles/2023-was-the-worst-year-yet-for-data-breaches%E2%80%8B

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com