子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
激動のAI時代を生き抜くため、
子どもに必要なスキルとは?
昨年11月末にリリースされた対話型AI「チャットGPT」は、まるで人間のように質問に詳細に答えてくれることから大きな注目を集め、公開からわずか2カ月で月間ユーザー数が1億人を突破しました。作詞作曲、小説や記事の執筆、プログラミング・コードの作成も数秒で完成させ、これまで人間にしかできないと思われていたクリエイティブな仕事も、AIに置き換え可能なことが証明されました。画像や動画など含め、新たなコンテンツを作成するAIは「生成系AI」と呼ばれており、ゴールドマン・サックスは最新の報告書で、生成系AIは世界で約3億人の仕事に影響を与え、市場に「大きな混乱」をもたらす可能性があると指摘しています。
新人の仕事の多くがAIに置き換わっていき、仕事の意味付けやライフスタイルまでもが激変する時代に突入しました。従来型の教育は、この数百年に一度の変化に対応できるようには設計されていません。正解のない時代を生き抜くためには、必要なスキルを家庭で培っていくことが不可欠です。以下、とくに重要なスキルを2つ紹介します。
1) 問題に気付く力
AIを使いこなす側は、問題を明確に定義して指示を出す力が問われます。不測の事態に素早く対応する以前に、そもそも何が問題かを発見する視点が求められます。特に大切なのが、広い視野と柔軟な物の見方。それに長けているユダヤ人の子育て法が大きなヒントになります。
世界の人口のわずか0.25%ほどしかいないユダヤ人が、なぜノーベル賞受賞者の20%以上を占めているのでしょうか。それは長い迫害の歴史の中で、生き延びるための独自の思考法を培ってきたからです。親は子どもにユダヤ教徒の聖典である『タルムード』を読み聞かせ、その登場人物に関して「どうしてそうなったと思う?」「あなたならどうする?」「ほかにはどんな方法がある?」と問いかけて問題を認識させ、さまざまな解決方法を考えるよう促すのです。
ユダヤ人の子育てを参考に、日常生活のさまざまな出来事を題材として活用してみましょう。たとえば、子どもが先生の文句を言ったら、「文句ばかり言わないの」とたしなめる代わりに、「それは嫌だね」「どうなったらいいと思う?」「そのために何ができる?」「自分が先生だったらどうする?」「自分が学校を作るならどんな学校にする?」など、子どもが自分の頭で考えられるような問いかけをします。「こんな風になったらいいな」と、少しでもワクワクし始めたらしめたもの。新しいビジネスを生み出す未来の起業家が育っています。
2)レジリエンス
先行きの見えない時代には、逆境に負けない心の強靭性「レジリエンス」が必須となります。レジリエンスとは、困難な状況に対し柔軟に対応して乗り越えていくことのできる精神的回復力のこと。楽観的思考、自己効力感などいくつかの要素がありますが、簡単に言うと、他人から何を言われようと「私はこれでいいんだ」という自分への強い信頼感です。
レジリエンスもまた、前述の「問題に気付く力」と同様に家庭で培うことのできるスキルのひとつです。いちばんの方法は、子どもに失敗や恥ずかしい経験をたくさんさせること。大切なのは成功することではなく、失敗した時にいかに素早く嫌な気持ちから立ち直り、挑戦し続けるかです。親の失敗談も共有し、失敗への恐れを和らげてあげてください。
失敗を恐れない子は、目標を達成できなくても現実を肯定的に受け入れ、目標を変更する柔軟な考え方も育っていきます。また、失敗を恐れずにプロセスや努力を楽しめる子は、ほかの人の失敗や欠点にも寛容になれるでしょう。
正解のない世界では、親や先生から言われることを鵜呑みにする子どものほうが、AIに使われる側になるかもしれません。親の仕事は、子どもの柔軟な視点をつぶさないまま、子どものレジリエンスを高めてあげること。親としての考えを伝えることも大事ですが、子どもが何を考えてどう感じているのか、そしてどう行動するのかを応援してあげましょう。
参考文献
(1)The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth
https://www.key4biz.it/wp-content/uploads/2023/03/Global-Economics-Analyst_-The-Potentially-Large-Effects-of-Artificial-Intelligence-on-Economic-Growth-Briggs_Kodnani.pdf
(2)ユダヤ人に成功者が多いのは「タルムード」に理由があった
https://diamond.jp/articles/-/212304
(3)What Really Makes Us Resilient?
https://hbr.org/2020/09/what-really-makes-us-resilient