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秋のヘルスケア2018「アメリカの医療システム」

寒くなると体のあちこちで変調が出がち。ホリデー・シーズンを気持ち良く過ごすためにも、気になる悩みは今のうちに解決しておきましょう!シアトル周辺のクリニックや組織で活躍するドクター、ナースプラクティショナーに話を聞きました。

取材・文:ハントシンガー典子

知っておくべき基本知識

病気やけがをしたらどうすればいい?
アメリカの医療システム

アメリカと日本とでは違う点も多いので、医療を受ける場合は注意が必要。いざというときのためにも、基本的な知識を身に付けておきましょう。

1.かかりつけ医(プライマリー・ケア)を見つける 日本では、耳が痛ければ耳鼻科というように症状に合わせて各専門医にかかりますが、アメリカではまず自分のかかりつけ医を受診するのが一般的。専門医を受診する場合、かかりつけ医の紹介が必要となります。日本の国民皆保険制度と異なり、個々で別の医療保険を持つアメリカでは、まず自分の保険を受け付ける医師、あるいはナースプラクティショナー(診療看護師)や、フィジシャンアシスタント(医師助手)など高度診療師を保険会社のウェブサイトなどで見つけます。
英語に自信がない場合は、通訳サービスを頼める診療所も多くあります。受診する際には、問診票に記載する内容(自分と家族の既往歴、服用している薬、アレルギーなど)を英語で準備しておくと便利。問診票は事前にオンラインで入手できます。受診当日は、受付でチェックインをすると、最初に看護師が体重や血圧を測り、受診理由を聞きます。その後、医師や高度診療師の診察となります。薬は、自分の行きやすい薬局をあらかじめ選んでおくと、その処方箋を直接送ってもらうこともできます。会計は、Copay(保険で定められている自己負担額)を払う以外は、請求書が後日郵送されます。
2.アージェント・ケアとエマージェンシー・ルーム(ER)の違い かかりつけ医は基本的に予約制なので、迅速な処置が必要な病気やけがの場合は、アージェント・ケア(Urgent Care)かERで診てもらいます。どちらも救急病棟のことで、アージェント・ケアは「命に関わらない症状」に特化した緊急外来、「命に関わる症状」ではERの受診が必要です。ERに行くべき症状の例としては、脳梗塞のサイン(片方の顔や腕の麻痺・ろれつが回らない)や大量出血のけが、大きな火傷などがあります。
風邪や尿道炎、小さな傷などはERでも対応してくれますが、重病人を優先するために待ち時間が長くなり、費用も高額になります。アージェント・ケアは予約をせずに利用でき、ある程度の血液検査やレントゲン、縫合などが受けられ、処方箋ももらえます。費用もERよりずっと安く済みます。短期滞在の人、慢性病がない人は、かかりつけ医を見つけるよりも、アージェント・ケアを利用するのもひとつの選択肢です。
どちらに行けば良いか、迷うような症状の場合、保険会社や病院が提供している24時間の電話サービス(ナース・ライン)で尋ねましょう。日本語では「はあとのWA」で、参考になる症状を参照できます。救急車は有料なので利用は慎重に。
軽症なら、スマートフォンやウェブカムを利用したバーチャル・クリニックもあります。家にいながらプロバイダーに診察をしてもらえ、処方も可能です。
3.医療保険の種類 個人や会社で医療保険に加入するアメリカでは、民間の保険会社やプランもさまざま。どの医療機関を利用するにしても、自分の保険内容を知っておくことが重要です。保険でカバーされない病院・医師などを利用すると、高額な請求に驚くことになります。保険プランによって自己負担額から免責額、受けられる治療や検査、薬、リハビリの期間まで変わってきます。妊娠・出産にかかる費用も保険でカバーされますが、内容は保険プラン次第。眼科や歯科は、それぞれ別に眼科保険(視力検査やメガネ・コンタクトレンズ用)や歯科保険に加入しなければなりません。
海外旅行保険を利用する際は、契約病院以外は自分で全額支払った後に保険会社へ請求する形が多いでしょう。基本的に急な病気やけがのための保険なので、健康診断や慢性病のケアなどには適用されません。

教えてくれた専門家
本田まなみ■福祉・医療・法律などの情報を日本人に提供するボランティア団体「 JIAコミュニティはあとのWA」 の代表。ワシントン大学大学院(Doctor in Nursing Practice)を卒業後、ナースプラクティショナーに。「ノースウエスト・ジェリアトリクス」に勤務し、シアトル近郊のナーシングホームや高齢者住宅を中心に、亜急性ケアおよびプライマリー・ケアを提供する。
JIAコミュニティはあとのWA
www.heartnowa.net

ソイソース編集長。エディター、ライター、翻訳家として日米で18年の編集・執筆経験を持つ。『マガジンアルク』『日本経済新聞』『ESSE オンライン』など掲載媒体多数。2017年から現職。