知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
2020年のまとめ&バイデン次期大統領の移民政策
新型コロナウイルス第3波の感染が拡大しています。2020年は新型コロナウイルスに始まり、自宅待機命令、リモート学習や勤務への移行、東京五輪の延期、そしてアメリカの大統領選挙と、激動の1年になりました。今回は、そんな2020年のアメリカ移民法を振り返ると共に、バイデン次期大統領の移民政策についてお伝えします。
●シアトル移民局の動向
シアトル移民局は業務を続けていますが、待合室の人数制限などにより、インタビューやバイオメトリックスが遅れています。また、グリーンカード更新申請やジョイント・ペティション(条件削除申請)に必要となるバイオメトリックスは、過去のケースの指紋が再利用され、バイオメトリックスのアポイントメントが免除されるケースが目立っています。ただし、バイオメトリックス料金の85ドルは返金されません。
また、2歳以上の入館者は全員、マスク着用が義務付けられています。体調のすぐれない人、咳や発熱など新型コロナウイルス感染症の症状がある人、過去14日間に新型コロナウイルスに感染している疑いがある人と接触した人、あるいは医療機関にて14日間自己隔離するように指示された人は、移民局への入館を避けるように要請しています。
●申請料の値上げ一時保留
以前本欄でもお伝えした申請料の値上げは、10月2日より実行される予定でしたが、12月現在、一時的に保留となっています。いつから実行されるのかは発表されていません。
●米国大使館・領事館でのビザ申請
東京の米国大使館では、Bビザを除く全ての非移民ビザサービス、またはアメリカ市民の配偶者や子どもの移民ビザサービスを再開しました。大阪の領事館では、全ての非移民ビザサービスを、福岡と札幌の領事館では、Bビザを除く全ての非移民ビザサービスを再開しています。
ただし、以前本欄でお伝えした「新型コロナウイルス流行後のアメリカの労働市場にリスクを与える外国人の入国停止宣言」と題する新たな大統領令は2020年12月31日まで有効ですので、入国制限に該当する外国人のアメリカへの入国制限は、現在も続いています。また、12月31日以降も、必要に応じて延長できることになっています。
郵送でビザを更新することが可能な場合、本来、現在のビザの有効期限が切れてから12カ月以内に申請しなければなりませんが、2020年12月31日までは、有効期限が切れてから24カ月以内に申請できるように条件が緩和されています。また、非移民ビザ申請料を支払った後、ビザサービスの一時停止に伴い、面接を予約できなかった申請者に対し、すでに支払った申請料の有効期限を2021年12月31日まで延長しています。
●バイデン次期大統領の移民政策
バイデン次期大統領は、トランプ大統領の移民政策の大半を撤回し、移民を歓迎すること、またアメリカの移民システムを近代化することを公約しています。一例として、バイデン政権発足直後の移民政策として掲げている事項には次のようなものがあります。
国境の壁建設に代わって、国境警備を強化する。
現在のアメリカには、トランプ政権の移民政策により、親から引き離されたままになっている子どもが500人以上いるが、この子どもたちを親と再会させることを最優先し、軽微な移民法違反を犯した親を起訴しない。
オバマ政権により導入されたDACAプログラムを復活させ、幼少時に親と一緒にアメリカに不法入国したドリーマーを非人道的な政策から保護する。また、ドリーマーが連邦政府から学資援助を得られるよう法的手段を検討する。
帰化申請の手続きを改善し、グリーンカード保持者がアメリカ国籍を取得しやすいよう、審査を迅速に行い、不合理な申請料を拒否する。
バイデン次期大統領は、「移民はアメリカの経済にとって欠かせず、彼らが持つユニークなスキルや伝統は、文化的にもアメリカを豊かにするもの」とし、上記以外にも、非移民ビザ労働プログラムの改革や抽選永住権の続投、難民や亡命を求める者に対するコミットメントを公約しており、政権交代後のアメリカ移民政策に期待が高まっています。
新型コロナウイルスとの共存生活にも慣れてきましたが、年末年始、皆さまが安全で健やかに過ごせるよう願っております。2020年は大変お世話になりました。2021年もどうぞよろしくお願いいたします。
*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。また、米国移民局ホームページ(英語)はこちらです。