Home アメリカ生活 知っておきたい身近な移民法 非移民ビザ延長申請に関する...

非移民ビザ延長申請に関する重要なアップデート

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください

非移民ビザ延長申請に関する重要なアップデート

移民局は、10月23日に、「ポリシーメモランダムPM-6020151」で“非移民ビザ延長申請審査時の、以前の認可決定優先性の撤回“を通知しました。ポリシーメモランダムは、移民局内部での通達で、一般大衆の権利・義務を直接形成する法律や法令ではありません。通達は、移民局内における審査官の用いる基準など、あくまで移民局内部でのルールであり、それによって拘束されるのは移民局審査官・職員です。しかし移民局審査官がビザ審査において適用するルールが、通達という形で指示されると、それはビザ申請に影響を与えることになります。

今回通知されたPM-602-0151は、ビザの延長申請時の審査に関して、今までのポリシーを取り下げるものです。今まで有効であったポリシーは、2004年に通知された“非移民ビザ延長審査における、以前の認可決定の重要性”というものと、また L-1Bビザ審査のみに関する2015年に通知された“L-1B審査ポリシー”と題されたメモランダムです。これら2つは、もしビザ延長申請において、以前と同じ申請者(雇用主)・受益者(外国人労働者)の申請で、ポジションなど事実関係も以前と同じであれば、以前移民局が認可を決定したという事実を考慮優先し審査を進めるべき、という内容でした。気を付けなければならないのは、以前の認可決定は、考慮が優先されるべき事項ではありますが、以前と同じ延長申請だからといって、自動的に認可を取得できるということではありませんでした。また、優先が見送られるべき状況として、以前の認可決定において、(1)移民局の重要な間違いがあった場合、(2)以前に比べて状況に相当な変化がある場合、また(3)申請者もしくは受益者の適格性に関して、以前の認可から悪影響をおよぼすような新しいインフォメーションがある場合という規定がありました。

(2)の具体例として、H-1B審査においては、申請されたポジションが専門職かどうか、という点がひとつの審査要件ですが、移民法上専門職の定義は、そのポジションに就くために必要な教育が、学士号である、ということです。この基準によると、以前は学士号が必要であったようなポジションが、時代・社 会の流れで変化する可能性があります。IT業界においては、この変化は顕著で、たとえばコンピューター・プログラマーは、以前は学士号が必要とされていた時代もありましたが、今ではそれが必須という社会の認識ではないことも事実です。(3)の例として、移民局が現地査察した結果、実際の状況が申請された内容とは違うというような状況が想定されます。このような場合においては、以前の認可決定は延長審査において優先はされないことになり、延長審査は全く白紙の状態から進められるというのが、以前まで有効であったメモランダムの内容です。

しかしPM-602-0151は、これら以前に有効であったポリシーを撤回し、全てのビザ申請において、白紙の状態から証拠類を全て徹底的に調査・検討した上で、審査が決定されるということを明確にしました。つまり、以前に同様の内容で認可が取得できた、という事実は、延長申請時において有利となる材料ではなくなった、ということになります。PM-602-0151が明確にしたもうひとつのポリシーは、ビザ申請においては申請者が立証責任(Burden of proof)を負うというものです。立証責任は、移民法の中でも、すでに申請者が持つと明記されていますが、今回再度メモランダムで明記された背景には、先の“以前の認可の優先”というポリシーが、立証責任の点において、延長申請の内容が以前の認可決定時と同じかどうかを、別途確認する必要が移民局にあるかのごとく解釈されていたためです。

PM-602-0151で明記されたポリシーは、あくまで移民局内部のみに有効な通達という形式をとりますが、ビザ延長申請における審査の厳格化により、さらなる審査の遅延が懸念されます。このようなポリシーが出された背景には、トランプ政権の進める「Buy American Hire American(アメリカ製品購入、 アメリカ人雇用)」政策が移民局の基本になっているからと考えられます。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118