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子ガモ騒動悲喜こもごも

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子ガモ騒動悲喜こもごも

朝のウォーキング途中、道路の反対側に母ガモとまだ毛がふわふわしている子ガモ7、8匹がいるのに気付いた。「うわぁ、かわいい~!」と眺めていると、その傍らに女性が立っていて、私に何か伝えようとしている。何だろうと、通りを渡り彼女が指差す下を見ると、道路傍の側溝の中で子ガモが1匹右往左往している。側溝の鉄格子の蓋の網目が大きすぎて、子ガモがそこからすっぽり落ちてしまったらしい。私たちは何とか助けたいと、格子を外してみたが手を伸ばして届く深さでもなく、子ガモは私たちを恐れて遠くへ行こうとする。

困っていると、近所に住む女性が、「子ガモが側溝に落ちたの? 市に連絡すれば助けに来てくれるわよ」と教えてくれた。早速スマホで電話番号を調べて発信。しかし私の拙い英語で通じるだろうか? 声を掛けてくれた女性の文章を思い出して言ってみると、市の職員は慣れた様子で、事情を理解して、子ガモの救出に来てくれることになった。

一緒にいた女性とは連帯感が生まれていたが、もう行かなくてはいけないとのこと。立ち去り際私の名前を聞いてきた。「Tomokoです」というと、「日本人ね。私はタイからきたの。あなたも仏教徒ね」と微笑んだ。「私仏教徒って言っていいのかな? 実家の宗派知らないし……」等と思いつつ曖昧に微笑み返し別れた。

しかし10分待っても救助は来ない。「City of Kirkland」と書かれたバンがやって来るのを今か今かと待つうち、母ガモたちは立ち去り、子ガモの声も聞こえなくなってしまった。もう忘れられているんじゃないかと疑い始めた頃、向こうから悠然とやってきたのは立派な消防車、しかも梯子車! そして消防車から降りてきた屈強な男達5人。思わず「子ガモを助けに来てくれたんですか?」と聞いてしまった。

拙い英語で一生懸命状況を説明しようと「Baby duckが、baby duckが……」と言っていたら、「ducklingね」とさり気なく訂正されてしまった。子ガモはduckling。子どもの絵本で何度も読んできたのに……。

それにしても、子ガモ1羽のために、消防車を呼んでしまってよかったのか、1回の出動で一体いくらかかっているのかと、少し怖気づいてしまった。子ガモが助かる見込みは少ないように思えたので、お礼を言って立ち去ることにした。
子ガモの可愛さによろこび、助けられそうな場所にいるのに手が届かないことを嘆き、タイ人女性との交流に心温められ、電話で英語が通じたよろこびを味わい、子ガモ救出にフル装備の消防車が来てくれたことに驚き、「duckling」が出てこなかった恥ずかしさに心凹ませ、そして、きっと助からなかったであろう子ガモに胸を痛め……。朝からてんこ盛りの経験をしてしまった。

※市の職員からは、一般人が助けようとしないようにと注意されました。

(Tomoko/ カークランド)