静かな琴の音から始まった夜
『SHOGUN 将軍』講演と和心会のNPO認定祝賀レセプション
取材・文:溝江暁子 写真:稲川幸則
アメリカ国内外で注目を集めたドラマ『SHOGUN 将軍』。その背景となる日本史をテーマに、和心会とタウンホール・シアトル共催による講演会が開催されました。講演後には和心会のNPO認定を祝うレセプションが催され、鏡開きとともに温かな祝意が広がりました。
岩崎氏が開会を告げ、講演の幕が上がった
12月8日、タウンホール・シアトルのグレートホールには、開場と同時に琴の音色が響き、来場者を厳かに迎え入れていた。和やかな雰囲気の中、和心会代表・岩崎由美氏が登壇し、同会がこれまで7年間にわたり日本文学・文化の公開講座を催してきたことを紹介。大学や領事館の協力に謝意を述べた。本講演はワシントン大学センター・フォー・ジャパニーズ・スタディーズおよび同大学アジア言語文学学科の支援を受けて開催された。地域団体と大学の連携によって実現したこの催しには、歴史やドラマに関心を寄せる幅広い層が集まった。
外の冷気とは対照的に会場は熱気に満ち、講演への期待が高まる中、ペンシルベニア大学東アジア言語文明学部のデイヴィッド・スパフォード准教授が登壇。全世界で話題となったドラマ『SHOGUN 将軍』を歴史学の視点から読み解いた。「『SHOGUN 将軍』は美しく魅力的な物語だが、描かれているのは 史実の日本ではなく、独自のパラレルワールドである」――。その核心をつく一言から講演は始まった。
会場は、スパフォード准教授の解説に聞き入る聴衆の熱気に包まれた
物語と史実、その距離をどう読むか
スパフォード准教授は、講演依頼を受けた時点ではまだドラマを視聴しておらず、準備のために一気に観たと明かした。歴史学者として学ぶ点は多くあったとしながら、作品の根底にある史実とフィクションの交錯には注意が必要であると指摘する。
登場人物は実在した人物をモデルにしているが、名前も設定も大きく改変されている。トラナガは徳川家康、マリコは細川ガラシャ、アンジンはウィリアム・アダムスに着想を得ているものの、描かれる政治的役割や人物関係、特に恋愛描写などは史実には存在しないと断言した。また、ドラマを巡る学界の反応にも触れた。歴史研究者たちが集まって「観るべきか否か」「日本史理解にどう影響するか」を論じる場が設けられたという。日本が西洋でどのように表象されてきたか、という長年のテーマが再び浮き彫りになった形である。
講演後のQ&Aでは多岐にわたる質問が相次ぎ、議論は白熱した
「忠義」は本当に中世日本の中核価値だったのか
講演の核心は、ドラマの中で繰り返される「忠義」という概念に向けられた。スパフォード准教授は、当時の史料の多くが忠義を褒め称える文言を含む一方、それは「本当に社会の中心的価値だったからではなく、そうであってほしいという願望が強かったからではないか」と指摘した。
戦国時代の日本は100年にわたり内戦状態であった史実を挙げ、もし忠義が社会の根本であったなら、これほど長い混乱にはならなかったはずだと語る。むしろ武士たちにとっては、倫理や理想よりも「生き残り、勝つこと」ことであり、実態と理想のあいだには深い乖かいり離があると語った。
さらに、ドラマの象徴的な一節「These are the rules, unless you win(掟はこうだ。ただし勝てば覆る)」に言及し、それを語るのが武士ではなく異国人アンジンである点を指摘した。史実では主従関係がきわめてもろく、対立はしばしば緊迫した形で表面化していたにもかかわらず、ドラマではその深層が十分に掘り下げられていないと批評した。
講演を終えて。歴史とフィクションの交差点
講演後のQ&Aは予定時間を超えて続き、作品の表象や史実とのズレ、武士像の形成過程など、多岐にわたる議論が交わされた。
最後にスパフォード准教授は、「『SHOGUN 将軍』をきっかけに歴史に興味を持つ人が増えるのであれば、それはとても望ましいことだ。史実を知ることで、ドラマはもっと深く、面白くなる」と結んだ。
歴史とフィクションの間にあるズレを入り口に、作品世界の背後に広がる日本史の奥行きを照らし出す講演となった。
本講演の模様はタウンホール・シアトルの公式YouTubeチャンネルで公開されている。
https://youtube.com/live/fljt4HdZa5Y
NPO認定を祝う鏡開きとレセプション
スパフォード准教授と伊従総領事が鏡開きを行い、祝宴の幕が開いた
樽酒ならではの香りを試すワシントン州日米協会会長・清水楡ゆ か華氏と在シアトル日本国総領事館 教育・JETプログラムアドバイザー迫本洋子氏
講演後、「よいしょ!」の掛け声とともに鏡開きが行われ、和心会がNPOとして認定されたことを祝うレセプションが開かれた。樽酒の香りが広がる中、杯を手に語らい合い、講演の余韻と祝意が入り混じる和やかな時間となった。和心会が長年続けてきた文化活動の広がりと、その新たな一歩を象徴する一夜であった。
日本文学・文化をテーマに講演や公開講座を継続的に開催。公式サイト:www.washinkai.info

















