一夜限りの寿司と日本酒の饗宴「Sake & Sushi Night」
取材・文:溝江暁子 写真:Aaron Mills
シアトル・パイオニアスクエアのレストラン、84イェスラーを舞台に、8月19日「Sake & Sushi Night」が開催されました。企画を手掛けたのは、日米間で多彩な文化交流やビジネス支援を行うエンコンパス・ジャパン。130年以上の歴史を持つ青森の老舗・桃川株式会社とマディソンパークにある名店Sushi Suzuki、そしてイタリアンをベースに地元食材を生かし独自の料理を展開する84イェスラーが一堂に会し、日本酒と寿司のマリアージュをテーマにした一夜限りのコラボレーションが実現しました。
満席の84イェスラーを舞台に、寿司と日本酒が織りなす一夜限りの宴が幕を開けた
イベント冒頭では、桃川株式会社/SakeOne Corporationの元取締役、村井京太氏が登壇し、蔵の歩みと米国での挑戦を語った。桃川の酒質を再現するために軟水にこだわり、オレゴン州フォレストグローブに現地醸造所「SakéOne」を立ち上げた経緯や、「アメリカでも本物の日本酒を知ってもらいたい」という思いから始まった挑戦は、今や現地のワイナリーに並ぶ存在へと成長。この夜は、純米酒から大吟醸、にごり酒まで、多彩な味わいが提供された。1990年代、日本で主流だった熱燗の文化が駐在員を通じてアメリカに伝わったものの、アルコールを温めて飲む習慣がない現地では日本酒は必ずしも良い印象を持たれなかった。そこで日本酒をリザーブ・ホワイトワインのように「冷やして楽しむ上質な酒」として提案し、市場の普及に尽力してきた桃川株式会社の歩みは、多くの客の関心を集めた。
一貫一貫に心を込めて寿司を仕立てる鈴木シェフ
寿司を振る舞ったのはSushi Suzukiの鈴木安孝シェフ。兵庫県出身の鈴木シェフは、日本での修行を経て渡米し、16年以上にわたりシアトルで寿司を握り続けてきた。「良い食材をまっすぐに届けたい」という言葉どおり、日本各地から直送された魚や、地元の旬の素材を巧みに取り入れた寿司は、この夜のハイライトの一つとなった。
金目鯛の炙り、昆布締めの地元産えび、北海道の時鮭の握りは、それぞれが酒の個性を引き立て、また酒に引き立てられる存在として提供された。なかでもえびの握りには、鈴木シェフが旅先で出合った食材「森のキャビア」と呼ばれるフィンガーライムが添えられていた。プチプチとはじける果汁の酸味が加わることで、伝統的な寿司に異国の風が吹き込まれ、唯一無二の表情を見せていた。クライマックスを飾ったのは、大トロの握りや炙りトロの握り、そして縞鯵の握り。脂の甘みとゆずこしょう、さんしょうの刺激を大吟醸が鮮やかに洗い流す。この瞬間に体感した寿司と酒の完璧な融合は鮮烈だった。
並んだ村井酒造の銘酒。純米から大吟醸まで、表情豊かな味わいが夜を彩った
この夜のメニューは、寿司と創作料理7品に6種類の日本酒を巧みに組み合わせた構成。料理と酒が呼応しながら、ひとつの流れをつくり出していた。最初に提供されたのは、トロとキャビアを挟んだもなか。軽やかなもなかの皮の香ばしさと濃厚な魚卵の塩味、しその爽やかな香りが、杉玉純米吟醸の柔らかな香りと見事に調和し、会場の空気を一気に引き込んだ。続く自家製ブリオッシュにうなぎをのせた一皿は、伝統的な蒲焼きのタレにハーブの爽やかさが加わり、料理人の遊び心を感じさせた。さらに、繊細な甘みが際立つズワイガニの茶碗蒸には、にごり原酒のコクが寄り添い、まるで語り合うように響き合った。また、この夜の料理を支えるだしには、鹿児島県枕崎の名産、かねも鰹節店の良質な鰹節が用いられ、その深い旨みが一皿ごとの味わいに奥行きを添えていた。デザートはホワイトチョコレートと抹茶のムース、ピーチのサバイヨン、ポピーシードケーキ。大吟醸を使ったカクテルと合わせ、和と洋が交錯するフィナーレを彩った。ブルーの色合いは、天然素材のバタフライピーという植物で演出。見た目も味わいも驚きに満ちた一皿だった。
料理と日本酒が織りなすペアリング。互いの個性が響き合い、会場を沸かせた
この夜のフィナーレを彩る一品
会場を提供した84イェスラーは、治安悪化や空洞化といったの課題を抱えるパイオニアスクエアにある。オーナーの高橋進氏は「地域が衰退するのを見ているだけではなく、飲食を通じて街を明るくしたい」という思いで店を運営している。地元食材を生かした独自のスタイルを基盤に、時に和のエッセンスを織り交ぜる料理は、この夜のコースでも存在感を放った。タラの西京焼きを思わせるギンダラの一皿や、寿司と並んで提供された創作料理は、84イェスラーならではのスタイルを強く印象づけた。高橋氏は「私たちはパイオニアスクエア、ダウンタウンでユニークで質の高いサービスと料理、居心地のいい雰囲気を築くことを目指している。地域のゲストハウスとして、みなさまにかわいがられたい」と語り、街とともに歩む姿勢を示した。
84イェスラーを率いる高橋オーナーと開店時からの常連客であるゲインズ夫妻
桃川株式会社の挑戦、Sushi Suzukiの技、84イェスラーの舞台が重なり合った今回のイベントは、シアトルにおける「食を通じた文化交流」の新しいかたちを示した。伝統を大切にしながらも革新を取り入れ、寿司と日本酒の新しい可能性を追求する姿勢は、今後のさらなる展開を期待させるものである。日本の食文化とシアトルの街を結び、一期一会の出会いを紡ぐこの夜の会場にはグラスを合わせる音と笑顔が響いていた。
営業時間:4pm~9pm 定休:日~火
☎206-624-1111、sarac@84yesler.com
www.84-yesler.com instagram:@84yesler
Sushi Suzuki
4116 1/2 E. Madison St., Seattle, WA 98112営業時間:5pm~10:30pm 定休:月火
☎206-466-6621
www.sushisuzuki.com instagram:@sushisuzuki.seattle
SakéOne 820 Elm St., Forest Grove, OR 97116
営業時間:11am~5pm 定休:火水
☎503-357-7056、tastingroom@sakeone.com
www.sakeone.com instagram:@sakeoneoregon


















