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バナナ・リパブリック(旧コロシアム・シアター)

バナナ・リパブリック(旧コロシアム・シアター)
500 Pike St., Seattle

 

シアトルのダウンタウン中心部、Pike St.と5th Ave.の角にある優雅な建物は現在、ファッション・ブランド「バナナ・リパブリック」の旗艦店となっている。外壁は白いテラコッタで覆われ、ルネッサンス・リバイバル様式の華麗な装飾と、十字路に面してカーブを描くドラマチックなエントランスが 印象的だ。

▲ コロシアムシアター開館初日の様子1916年1月 CharmaineZoe at Cinema Treasures

もとは「コロシアム・シアター」という映画館で、完成は 1916年。開館当時のうたい文句は、「世界最大で世界一優雅な活動写真の殿堂」。映画産業が本格的に花開き、各地に豪華 な「パレス(宮殿)」と呼ばれる劇場が続々と造られた時代だった。この劇場も(世界一ではなかったにしても)西海岸で最大規模、内装も豪華絢爛だ。紳士用の喫煙室、広々した淑女用の化粧室、子どもたちのためのプレイルームも備え、ロビーの大きな鳥かごにはたくさん鳥が飼われていたという。

▲1970年頃のシアター Texus2step at Cinema Treasures

当時の映画はサイレント。コロシアム・シアターには8人編成(全員ロシア人)の専属オーケストラがおり、立派なパイプオルガンがあった。定員は2,461名という大劇場で、初日には長蛇の列ができ、ハリウッドから女優のアニタ・キングも招いた。オープンを飾った映画は、セシル・B・デミル監督、早川雪洲主演の「The Cheat」。雪洲がニヒルな悪役を演じて彼の大出世作となったものだ。しかし、役柄が「非道で好色な日本人」であったために在米邦人社会からは国辱として糾弾され、日本では公開されなかった。この時代の偏見をそのまま反映した映画ではあったが、雪洲はミステリアスなイケメン俳優として日本人初のハリウッドスターになったのだ。

▲館内の桟敷席 CharmaineZoe at Cinema Treasures

豪華なコロシアム・シアターは、シネコンが登場し始めた 80年代には採算が取れなくなり、1990年にはついに閉館。取り壊しの話も出ていたが、ダウンタウン復興計画の一環として保存する方向に話が進み、いくつかのテナントが検討した後でバナナ・リパブリックが改築に着手した。改築デザインはシアトルの設計事務所、NBBJが担当。シアター開館当初、エントランスの上にはイタリアの聖堂風のドームが付いていたが、これは50年代に取り壊されて、アールデコ風の円筒形の飾りと看板に替わった。1995年に店舗に改装する際には、それが金属の格子窓とガラス製のひさしに取り替えられたが、そのほかの外観はほぼオリジナルのまま。内部にも テラコッタ製の装飾などがかなり残されている。ホリデー・ ショッピングのついでに、オーケストラとオルガンのあった「映画の宮殿」の面影を探してみてはいかがだろう。

▲豪華なカーテンで飾られた舞台 William at Cinema Treasures

[たてもの物語]

 

シアトル生活7 年めの英日翻訳者。 livinginnw.blogspot.com 協力:シアトル建築財団(Seattle Architecture Foundation/SAF) シアトルの建築やデザインと人びとを結ぶことを目的に活動する非営利団体SAFは、シアトルの建てものを巡る楽しいツアーを常時開催中(英語のみ)。本コラムはツアーで紹介されるエピソードを中心に、SAFのエキスパートの協力を得ています。詳細はseattlearchitecture.orgへ。