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紅白歌合戦 ~ニッポンの歌を探して Vol.5

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌を探して Vol.5

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

第5回 紅白歌合戦

アメリカに住む日本人の方は、どんな年越しを楽しんでいるのでしょうか? 私が日本に住んでいた時、わが家では開始と同時に紅白歌合戦にTVのチャンネルを合わせ、終わるまでつけっ放しにするのが常でした。家族でご馳走を囲みながらチラチラとTVの画面に目をやり、各自バラバラに時間を過ごしたあと、11時を過ぎた頃にまた食卓に皆集まってきて年越し蕎麦をすすりながら紅白歌合戦の勝敗を見届けました。子どもの頃は、演歌や古い曲ばかりが披露されている印象で、あまり真剣に視聴していた記憶はありません。それが、いつの間にか私にとって紅白歌合戦は大晦日になくてはならないものになっていました。アメリカに住んでからも、最近では海外で日本のTV番組を視聴する方法はいくつかあるので、毎年欠かさずに視聴しています。

私がいちばん感動したパフォーマンスは、2012年の大晦日に放送された第63回紅白歌合戦の美輪明宏の「ヨイトマケの唄」です。歌、というよりはまるで芝居のようで、あまりに魂のこもったパフォーマンスに、息をするのを忘れるくらい見入ってしまいました。もともと1965年に発売されてヒットし、当時も紅白歌合戦出場の打診があったそうです。しかし、この曲は6分と長く、1曲当たり3分という番組の規定枠を大幅に超えるため、出演は実現しませんでした。そして、50年以上経った2012年、ついにこの曲が披露されることになり、美輪は77歳にして紅白歌合戦初出場となりました。

ヨイトマケとは、建設現場で地固めをする際に、重い岩を滑車に縄で吊るした槌を数人で持ち上げる時の掛け声だとか。シャンソン歌手として活動していた美輪が、筑豊の炭鉱町でコンサートを行った際に、集まった観客の多くが炭鉱労働者で、自分には彼らに対して歌える曲がない、とショックを受けたことが「ヨイトマケの唄」を作るきっかけになったそうです。こうして出来上がった「ヨイトマケの唄」は、多くの人の心をつかみました。

今年の第71回紅白歌合戦のテーマは「今こそ歌おう みんなでエール」だそうです。歌は、ときに人の心を大きく動かすことがあります。特に、つらい時、大変な思いをしている時にはなおさら、歌によって励まされることが多い気がします。2020年も、この1年を振り返りながら、紅白歌合戦と共に年を越そうと思います。

横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。