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「はちどり」韓国で生きる少女の現状への問いかけ

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韓国で生きる少女の現状への問いかけ

House of Hummingbird
原題「벌새」、邦題「はちどり」

本作を見て、少女時代がビビッドによみがえり、胸苦しくなった。たぶん、多くの女性が同じように感じるのではないだろうか。韓国の若い女性監督、キム・ボラのオリジナル脚本による長編デビュー作で、シアトル国際映画祭審査員大賞を始めとして、世界中の映画祭で作品賞や監督賞などを受賞した話題作だ。

舞台は1994年の韓国。主人公である14歳のウニ(パク・ジフ)は、忙しい餅菓子屋を営む両親と兄姉のいる5人家族の末っ子。兄(ソン・サンヨン)はソウル大を目指して猛勉強中、姉(パク・スヨン)は父(チョン・インギ)を嫌い夜遊びし続けている。ウニはおとなしく、学校が苦手。他校にいる親友とだけ語らい、下校時にはボーイフレンドと帰宅する。一見ごく平凡に見えるウニだが、彼女の日常には小さな事件やドラマが頻発する。

ウニをなぐる兄、そんな兄だけに期待を傾ける父、伯父のために大学進学をあきらめた悔恨を持つ母(イ・スンヨン)、父に叱られ泣くしかない姉。ウニをとりまく環境は平穏とは程遠いのに、日常は何事もないかのように過ぎていく。そんなウニが、初めて自分に関心を持ってくれる大人の女性、漢文塾の女性教師であるヨンジ(キム・セビョク)と出会い、自分の環境に疑問を持ち始めるのだった。

少女期に多くの女性が体験するであろう日常に向けられた視線は、フェミニストの視線である。優しくデリケートにウニに語りかけたヨンジは、まさに韓国で生きる少女の現状に問いかけるボラ監督自身なのだろう。なぜ兄だけが期待されるか。なぜ姉の自由は父から否定されるのか。母はなぜ悲しそうなのか。なぜウニは家族から忘れ去られているのか。無言で大きく目を見張るしかないウニ、ぼんやりと車窓から外を見つめるウニ、みずみずしい映像を通して描かれていくのは、個としての尊厳を少しずつ削り取られていく少女の姿であり、そんな少女が1年を経て少しだけ力を付けていく姿である。

自身の体験を元に脚本を書いたというボラ監督は、今韓国で盛り上がりを見せているフェミニズム運動の中から生まれた優れた才能だ。本作の持つ静かなパワーと説得力に、多くの女性の共感を得ることができると思うが、男性にもぜひ観て欲しい。14歳のウニが沈黙の中で、何を感じ、どんな風に傷付いていったのか、ウニを自分の娘、妹、姉、母の少女期など身内の女性に置き換えて観てみてはいかがだろう。そうすれば、父の期待の重圧から妹を殴る兄の暴力的衝動、家父長制度が根強く支配する家族の不幸を実感できるのではないか。フェミニズムは女性だけの問題ではないのだ。

House of Hummingbird
原題「벌새」、邦題「はちどり」

再生時間:2時間18分

写真クレジット:Well Go USA Entertainment

Amazon、YouTubeなどで視聴可能。

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。