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The Boy and the Heron(原題「君たちはどう生きるか」)〜注目の新作ムービー

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謎こそが宮崎作品の魅力


The Boy and the Heron
(原題「君たちはどう生きるか」)

 

世界中が待ち焦がれていた名匠、宮崎 駿監督の新作アニメ。1月7日発表のゴールデングローブ賞のアニメ映画賞に日本の作品で初めて選ばれた。ほかにも数々の映画賞にノミネートされており、米国での評判は上々だ。ただ、日本では難解との声も聞こえてくる。

舞台は第二次世界大戦中の日本。主人公の眞人(山時聡真)の最愛の母、ヒサコは開戦から3年後の空襲による火事で亡くなっていた。翌年、眞人は父(木村拓哉)と母の実家へ疎開。そこには母そっくりの妹、夏子(木村佳乃)がいて、夏子が父の再婚相手であること、眞人がお腹の赤ちゃんの兄になることを告げられる。

母親が忘れられず、疎開生活にもなじめない眞人の元に怪しいアオサギ(菅田将暉)が何度ものぞきに来て、ちょっかいを出す。気になった眞人は敷地内の塔に棲むアオサギを追うが、入り口はふさがれていた。夏子は、この塔は大伯父(火野正平)が建てたもので、彼は塔に入ったまま帰らないと言う。その後、つわりがひどくなっていた夏子も失踪。眞人は、年老いた女中のキリコ(柴咲コウ)と共に夏子を探しに森へ行き、謎の塔の入り口へと導かれ、迷い込んでしまう。そこでは眞人には想像もつかない、異界での体験が待ち受けていた。

異界では、若き日のキリコや火炎を操る少女ヒミ(あいみょん)、さらにワラワラと呼ばれる、人が生まれる前の魂(滝沢カレン)、それを食べようとするペリカンの群れ、異界で王国を築く人間大のインコなどが現れる。眞人はアオサギと共に何度も危険を乗り越え、夏子を探し続ける。

多くの人物や異界の生き物、それぞれの不可解な役割や行動など、決してわかりやすい物語ではない。前後の辻つじつま褄を合わせ、隠れた意味を見出そうとしているうちに、観ている側も迷路に入り込んでしまうだろう。

「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」など、これまでも宮崎作品では、異界に迷い込んだ少女たちの冒険と現実への帰還という物語が描かれてきた。どの作品をとっても、「辻褄合わせ」をすることに意味はない。なぜ猫がバスなのか、なぜ海の上に電車が走っているのか、なぜ城が空を飛ぶのか、その謎こそが宮崎作品の魅力だった。現実では味わえない異界の摩訶不思議、そこに生息する異形の愛すべき存在。そんな夢の世界を、飛びきり美しい映像で見せくれる宮崎作品だからこそ、世界中の子どもたちや映画ファンの心をガッチリつかんできたのだと思う。

確かに、本作の難解さは他作品と比べても飛び抜けている。夢と謎の世界に浮遊することを拒むようでもある。だが、観る者をグイグイと引き込む物語性は卓抜し、その作家性は世界でも比類なきものだ。

本作の難解さもまた、謎のひとつと言えるのではないだろうか。辞めると言って何度も復帰した宮崎監督が、80歳を超えて発表した本作には、きっと過去作で伝え切れていなかった何かが込められているに違いない。何度も見返しながら、その何かを探ってみたい。そう思わせてくれるのが宮崎作品の奥深さでもある。

本編が終わってエンドロールが流れる間、隣で食い入るようにスクリーンを見つめるローティーンの少女ふたりがいた。終わって欲しくないとスクリーンを見上げる彼女たちの真剣な横顔。筆者もまた、ふたりと同じであったのだろう。

 

The Boy and the Heron
(原題「君たちはどう生きるか」)

写真クレジット:東宝、GKIDS
上映時間:2時間4分
シアトル周辺ではシネコンなどで字幕、吹き替えの両方を上映中。

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。