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注目の新作ムービー「黒い司法 0%からの奇跡」

注目の新作ムービー

こんな時だからこそ……

Just Mercy
邦題「黒い司法 0%からの奇跡」

Clemency
邦題「クレメンシー」

新型コロナウイルス感染者が増える中、映画館も閉鎖され、オンラインで映画三昧の日々だ。暗い気分になりがちなので、アクションものの「ジョン・ウイック」3部作ほか、大好きな「スター・ウォーズ」や「トイ・ストーリー」のシリーズを一気見していた。それなりに楽しいのだが、いくら見ても気分が晴れない。感染拡大への不安に加え、消えたマスクやトレペ争奪、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離戦略)による孤立感など、心に広がるウイルスは消えていかないのだ。やれることは全部やっているのに、どこか気持ちがフラフラして落ち着かない、なんとかならないものか。そんな時にこの2作の映画に出合った。ストリーミングが始まったばかりの新作映画で、偶然にも死刑囚と死刑執行人を扱い、共に主人公はアフリカ系アメリカ人だった。こんな時期に死刑なんて、と思われるかもしれないが、こんな時期だからこそかえって響くものがあったのだと思う。

1作目は「Just Mercy(邦題:黒い司法 0%からの奇跡)」。1988年にアラバマ州で実際にあった事件を土台にしている。白人の少女を殺した容疑でアフリカ系の男(ジェイミー・フォックス)が逮捕され、ろくな証拠もないまま死刑囚となった。それを知った若い弁護士( マイケル・B・ジョーダン)が、再審などあり得ないと心閉ざした死刑囚を説得し、再審を勝ち取っていく。80年代の話とはいえ、これが実話かと驚愕する根深い人種差別が冤罪の背景にあるのだが、センセーショナリズムを抑えた演出と主演ふたりの好演が際立つ秀作だった。監督・脚本はハワイのマウイ島出身で、「ショート・ターム」で高い評価を受けたデスティン・ダニエル・クレットン。

2作目は死刑執行を職務とする刑務所長を描いた「Clemency(邦題:クレメンシー)」。主演はベテラン、アルフレ・ウッダードだ。法規に従い粛々と死刑執行をしてきた所長は、その重圧から私生活を台無しにしていた。そして、処刑の決まった死刑囚の弁護士が冤罪を主張し始めると、彼女はさらに大きな葛藤を抱え苦悩を深めていく。死刑について何も語らない主人公だが、彼女の抱える痛みを通して、死刑制度そのものを考えさせられる極めて優れた作品。ウッダードの会心の名演が本作の大きな見どころでもある。オリジナル脚本・監督はナイジェリア出身の若き女性監督、チノナイ・チュクー。彼女の初長編作品だ。昨年のサンダンス映画祭ではグランプリを獲得した。

この2作品を通して、フラついていた足が地に着く感覚があった。わが身に降りかかるさまざまな怖れや不安から1歩離れ、他者の運命や苦悩を思う心のバランスを取り戻すことができたから、なのだろう。こんな時だからこそ、普段の生活ではできない、じっくりと物事を考えるチャンスを持ちたい。骨太な人間ドラマに出合いたい。

アクション映画や明るい娯楽映画は、平穏な日々があってこそ楽しめるものなのかもしれない。

Just Mercy
邦題「黒い司法 0%からの奇跡」

写真クレジット:NEON

上映時間:1時間52分

オンライン動画配信サービスなどでレンタル可。


Clemency
邦題「クレメンシー」

写真クレジット:Warner Bros

上映時間:2時間17分

オンライン動画配信サービスなどでレンタル可。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。