Home 観光・エンタメ シアトル・アジア美術館

シアトル・アジア美術館

戦前の歴史的建築にモダンな大展示場を増設! 同館秘蔵「洛中洛外図屏風」修復プロジェクトも始動

取材・文:ハントシンガー典子

キャピトルヒル近くのボランティア・パーク内で、多くの日本人アーティストを含む素晴らしい作品の数々を展示してきたシアトル・アジア美術館。2019年のリニューアルオープンに向けて2月26日をもって一旦閉館となり、いよいよ待望の大プロジェクトが動き出します。

カール・グールド、チャールズ・ベッブ両氏により設計され、1933年に完成したシアトル・アジア美術館の建物。シアトル・アジア美術館としてオープンしたのは1994年だが、1991年にダウンタウンへ移ったシアトル美術館の前身としてもその歴史を刻んでおり、2016年にはアメリカの歴史登録財にも認定された。そして、耐震強度や冷暖房設備のアップデートも兼ねた、創設以来の本格リノベーションが間もなく始まろうとしている。

シアトルアジア美術館エントランス2019年にはどう変わっているか今から楽しみだ

アールデコ調の優美な外観はそのままに、建物の裏手に3階分のスペースがドッキングし、2019年には新しい姿がお披露目される予定。2,650平方フィートもの広さを誇る新ギャラリーの登場は、シアトルのアート・ファンにとって嬉しい限り。また、人気のボランティア・パーク内という恵まれた立地を生かし、訪れた人々が館内からも四季折々の風景を楽しめるよう、公園側のほぼ全面がガラス窓となるロビーも設置される。新館を彩るランドスケープ設計も進行中だ。さらに、コミュニティーとのつながりを強化するプログラムやイベントの実施に向け、キッチン付きのミーティング・ルームや子ども向けのエデュケーション・スペースも設けられる。

シアトル・アジア美術館はその名の通り、アジア美術をシアトルから発信し、世界に広める役割を担っている。熱心なアジア美術コレクターとして知られるシアトル美術館創設ディレクター、リチャード・フラー博士の尽力もあり、所蔵する美術作品は日本のものだけでも3,400点以上。日本画コレクションのひとつには、17世紀作と伝わる「洛中洛外図屏風」もある。

京都市中・郊外の様子を上からの視点で描いた「鳥瞰図(ちょうかんず)」の技法が特徴的な洛中洛外図屏風。日本では国宝や重要文化財指定の作品も存在し、6枚折りの屏風が対で2隻そろう、六曲一双の洛中洛外図屏風は世界的にも貴重なものだ。1975年に国内のギャラリーから購入して以来、3度しか一般公開していないという同作は、日本でも未公開という秘蔵品。

修復に出されることが決まった洛中洛外図屏風閉館直前まで開催されていた現代美術作家束芋の作品展うつつしうつしが3度目の一般公開となった
金雲に見え隠れする形で祇園祭など季節の風物詩を所々に配しながら二条城そして東寺清水寺などの名刹を含む京都の風景を描く侍や公家農民町人僧侶遊女南蛮人までその細かい人物描写には目を見張る

購入時から細かい修復を繰り返していますが、慎重な取り扱いを要することは変わりません。後世に作品を遺すためにも、日本画の専門家による大掛かりな修復が必要でした」と、シアトル美術館修復スタッフのチーフであるニコラス・ドーマンさんは説明する。今回、バンク・オブ・アメリカ美術修復プロジェクトによるスポンサー支援が決まり、同館とは10年来の付き合いという日本美術修復のエキスパート、カリフォルニア州の「装嚴洞(そうげんどう)」への依頼が可能になった。シアトル・アジア美術館のリノベーションと時を同じくして、これから2年間の修復作業に入る。「新しいシアトル・アジア美術館で、美しく蘇った作品をぜひ見て欲しい」と、広報マネージャーのレイチェル・エッガーさん。どちらも、その公開日が待ち遠しい。

同館の作品管理修復に携わるドーマンさん今回の修復プロジェクト実現へ導いた立役者だ

SEATTLE ASIAN ART MUSEUM
場所:1400 E. Prospect St., Seattle
(Volunteer Park 内)
詳細:www.seattleartmuseum.org