日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
2007年4月から始まったこのコラムも今回が最終回となりました。長年に渡り、お付き合いくださった読者の皆さま、また、このコラムを連載する機会を与えてくださり、毎月、校正、編集にご尽力くださいましたソイソースのスタッフの方々、誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます。皆さまの益々のご健勝を心より祈念申し上げます。
抹茶が歯周病に効くかもしれない
歯周病は、人類史上で最も広まっている感染症と言われており、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、肺炎、妊婦の早産や低体重児出産等のリスクを高めるため、歯周病を抑制することが全身の健康維持にとっても重要であることはこのコラムで何度となく取り上げてきました。緑茶に含まれる抗菌成分は、歯周病に有効である可能性があることもこのコラムで取り上げました。しかしながら、緑茶の一種である抹茶に絞った研究はこれまでほとんどありませんでした。最近、日本大学松戸歯学部と国立感染症研究所らの研究チームは、抹茶が歯周病の原因菌の中で一番重要と言われているポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)という細菌の活性を抑え、また臨床的にも歯周病に効く可能性があることを発表し注目されています。今回は、この研究(Microbiology Spectrum2024;DOI:10.1128/spectrum.03426-23)を中心に抹茶と歯周病との関係について述べていきたいと思います。
緑茶と抹茶の違いについて
緑茶は、発酵していないお茶(非発酵茶)の総称。それに対し、紅茶は発酵茶に、ウーロン茶は半発酵茶に分類されます。さらに、緑茶には育成方法や加工法の違いによって、煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶などに分類されますが、現在では「緑茶=煎茶」として使われる場合が多いようです。抹茶は緑茶の一種ですが、茶葉を摘む前にわらや専用の黒いシートを約20日間被せて日光を遮り蒸して乾燥させた碾てんちゃ茶というお茶を使用します。これを石臼で粉末状にしたものが抹茶です。
抹茶の成分の特徴
緑茶に比べ、抗酸化作用のあるカテキンを約2倍含み、旨み成分であるテアニンが豊富で、緑茶には含まれないルテインやビタミンKを含むのが特徴。
今回の研究(Microbiology Spectrum 2024;DOI:10.1128/spectrum.03426-23)
①.抹茶液が口腔内の16種類の細菌に及ぼす影響について調べ、抹茶液は、歯周病の最有力菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスとほか2種の細胞増殖を抑制したが、そのほかの無害な細菌には影響を及ぼさなかった。
②.さらに抹茶のマウスウォッシュを歯周病患者に使用し、その臨床的な効果を調べたところ、唾液中のポルフィロモナス・ジンジバリスの数を減少させた。また統計学的有意差は出なかったが、歯周ポケットの数値を改善させる傾向を示した。
③.これらの結果から、抹茶には歯周病の予防および治療効果がある可能性が示唆された。
まとめ
今後、抹茶成分を使った他の口腔細菌に悪影響の少ない、歯磨き剤、洗口剤や歯周病治療薬が開発されるかもしれませんね。楽しみに待ちたいと思います。
▪️第3パラグラフ: Microbiology Spectrum 2024;DOI:10.1128/spectrum.03426-23
https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/bacteriology/12687-bac-2024-04.html