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耳型

最近、意外な人たちから耳型作成の依頼が来る。先週来院された29才の男性は、イヤーモニター(In-ear monitors) を作るために耳型を取りにきた。日本では、通称「イヤモニ」と呼ばれているものだ。ミュージシャンやオーディオエンジニアがマイクで収録した音声や音響をチェックするために使用するヘッドフォンの一種で、プロが使うイヤモニでは、各人の耳の穴の形をとり、完全に特注で作られる。よく歌番組などで、歌手が耳に付けているのがそれだ。
楽器の音が大きいので演奏する音量で十分に聞こえるのでは、と思いがちだが、スピーカーは客席に向けられているため、歌っている本人は自分の声や楽器の音が聞き取れなくなることがある。特に、大きな会場の場合、音が拡散されてリズムやテンポなどが崩れて耳に届くため、イヤモニで音楽と歌声を1つにまとめて直接耳に送り、歌手や楽器奏者がちゃんと聞き取れるようにするというものだ。完全オーダーメイドで製作されるため、安くても数百ドルはする高価なものだが、音質、装着感覚、遮音性は抜群に良く、音楽を本格的に目指す人が必ず求める商品だ。
ところが最近、プロの音楽家ではない普通の人たちがイヤモニを作成するために、耳型を取りに来る。何か楽器を演奏しているのですか? 歌手ですか? と聞くと、そうではなくて、「イヤモニを通して聞こえる音楽のクオリティが、普通のヘッドフォンと比べて数段に良いから作るんだ。数千ドルを支払う価値は十分にあるよ。例えば……」と、音質の違いを長時間かけて語ってくれて、彼らの音へのこだわりがこちらにも伝わる。出来上がったピンクの耳型が入った箱を大事にかかえて、嬉しそうに帰っていく様子が非常に印象的だ。
冒頭の男性は、職場からイヤモニをオーダーするようにと言われてきたそうだ。教会の礼拝ディレクターという立場にあり、毎日のように練習をするため、その都度大音量の楽器演奏と歌声を聞く。教会の中というのは厳かで静かというイメージがあったため、彼が置かれている状況を聞いてかなり驚きだった。練習後は、耳鳴りが短期間続くことが時々あるそうだ。イヤモニは、音楽を聴くだけではなく、生音を低く抑えるのにも効果的なため、教会がスタッフの聴力の保護に努めようとする行為に感心した。もちろん費用は教会が支払った。聴力の保護の大切さがいろいろなところで理解されつつあるようだ。
世の中には、聴力保護を関連付けるべき職業はまだまだ多くあるのかもしれない。今後、どのような職業の方がイヤモニの耳型とりに来られるのか、非常に興味がある。

earstory20160825

[耳にいい話]

真宮 杏奈
ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526