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第9回 「発達」について知っておきたいこと〜Dr.松浦の診療所から

小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。

第9回 「発達」について知っておきたいこと

子育てをしていると、「同じ月齢の子と比べて少しゆっくりな気がするが、このまま様子を見ていて大丈夫だろうか」と、子どもの発達について悩む瞬間が誰にでも訪れます。特に海外での子育てでは、医療や支援の制度が日本と異なるため不安を感じやすいかもしれません。このような場面でよく耳にする「発達」という言葉ですが、実際にはどのような意味を持つのでしょうか。今回は、「発達の遅れ」と「発達障害」、またアメリカでの評価の考え方や支援体制について解説します。

発達は5つの領域から成り立っている

子どもの発達は一つの側面だけで評価されているのではなく、現在の臨床現場では以下の五つの領域に分けて総合的に評価されます。

運動スキル : 寝返り、歩行、手先の操作など
認知スキル : 考える力、問題解決、理解力など
言語スキル : 話す・聞く・理解する力など
社会情緒スキル : 人との関わり、感情のコントロールなど
適応スキル : 食事や着替え、トイレなど日常生活を送る力

発達を専門家が評価する際には、これら五つの領域が同じ月齢の子どもたちの集団の中でどの位置にいるかを見ています。自治体や州によって運用に違いはありますが、各領域において同月齢の子どもの約75%が達成している発達段階にまだ十分到達していない場合、何らかの支援を検討する対象となることが多いです。これは遅れているから問題であるという意味ではなく、適切なサポートがあれば発達をさらに伸ばせる可能性があるという判断です。アメリカでは、この考え方に基づき、比較的早い段階で専門的支援につなげることが推奨されています。

アメリカの健診とスクリーニングの仕組み
それでは、誰が発達を最初に評価する役割を担っているのでしょうか。アメリカでは、定期健診(Well-check)が発達を見守る重要な機会となっています。日本と比べて健診の頻度が高く、また集団健診ではなく、医師と一対一で行われる点が特徴です。一般的な健診の時期は、生後2カ月、4カ月、6カ月、9カ月、1歳、15カ月、18カ月、2歳、2歳半、3歳、その後は毎年行われます。特に18カ月と2歳には、自閉スペクトラム症のスクリーニングが行われます。このスクリーニングは診断を目的としたものではなく、「より詳しい評価が必要かどうか」を判断するためのチェックです。気になる結果が出た場合には、早期に次のステップへ進むことができます。
「発達の遅れ」と「発達障害」は同じではない
混乱しやすいところですが「発達の遅れ」と「発達障害」は基本的には異なる概念です。発達の遅れとは、本来その年齢で期待される発達段階に、まだ到達していない状態を指します。一方で、発達障害は発達の進み具合というよりも、発達の特性の質の違いによるものと考えられています。ただ、実際の診療では、「言葉が遅い」「集団行動が苦手」といった発達の遅れをきっかけに専門外来を受診し、詳しい評価を行った結果、発達の遅れのみではなく発達障害であることが分かるケースもあります。このように、遅れと障害は別の概念ですが、重なることがあるという理解が重要です。
発達の専門的な評価は誰が行うの?

一般小児科医が健診の中で発達に気になる点を認めたとしても、比較的軽度の遅れの場合、乳幼児期(0歳から3歳)であれば早期発達支援制度(EI:Early Intervention)と呼ばれる支援制度に紹介されることが多いです。ワシントン州では、乳幼児早期支援制度(ESIT:Early Support for Infants and Toddlers)が運用されており、発達の遅れやリスク等の一定の基準を満たす場合、言語療法、作業療法、理学療法などの支援を原則として家族の費用負担なしで受けることができます。また保護者が直接申請することも可能です。申請後、専門家による評価を受け、一定の基準を満たすと判断された場合は療育を受けることができます。

一方、著しい発達の遅れや発達障害が疑われる際には、早期発達支援制度の紹介と並行して、より詳しい評価と診断、そして支援につなげる目的で専門医へ紹介されることがあります。発達障害の精密な評価は、発達行動小児科医、小児精神科医、あるいは小児を専門とする臨床心理士などが行います。外来予約の状況によっては、評価を受けるまでに時間を要することがありますが、詳しい評価と診断を経て、その後の個別支援につなげることができます。なお、日本語で対応が可能な発達専門外来はアメリカ全体でも限られています。私はシアトル小児病院の発達専門外来を担当しています。希望される場合はかかりつけ医を通じて紹介を受けることで、私の外来を受診することができます。

まとめ

子どもの発達は個人差が大きく人と比べて不安になることも少なくありません。困ったときは、医師をはじめとした専門家と早めに情報を共有することが、子育てをする上での心強い支えになります。

松浦 有佑
米国小児科専門医。ワシントン大学シアトル小児病院小児発達行動専門フェロー。日本医師免許取得後、日本国内初期研修を経て米海軍病院で勤務。アメリカ医師免許を取得し、2021年からニューヨークのマウントサイナイ病院で小児科専門医レジデンシーを開始。同時にジョンズホプキンス大学で公衆衛生修士課程を専攻。ともに修了し、2024年より現職。NHKワールドや在米邦人チャンネルさくらラジオでラジオドクター等の出演歴あり。共著には『全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法』『ぼくらのリアル!メディカル英会話フレーズ集』がある。2026年に『発達障害を正しく知る』(幻冬舎新書)を刊行。