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キスの際に気を付けたいこと

学生時代、その授業で病院勤務の講師が、 鼓膜が破れたといって駆け込んでくるケー スの原因のひとつに「キス」があると話していた。当時はまさかと思っていたのだが、今回の50代女性の問題は、どうも婚約者の突然の熱いキスから始まったようだ。婚約者と一緒に来院した彼女は、婚約者の手を握りながら、次のような話をしてくれた。

その日は夜にマリナーズの試合を一緒に観に行く予定で、ふたりは準備をしていた。彼が彼女の右後ろから突然ハグをして、耳に思いっきりキスをしたそうだ。そのとたん、右耳に激痛が走り、一瞬周囲の音が聞こえなくなった。しばらくして、少し落ち着いたので試合観戦にバスで向かうと、荷物を置く棚で前頭を強く打った。それらが原因なのか分からない、たまたま偶然始まったのかも分からない。その日から、彼女の右耳の聴力は左と比べて悪くなったままで、左右で異なる耳鳴りが続き、さらに、全ての音に非常に敏感になった。

それから3カ月後、耳鼻科を受診すると突発性難聴かもしれないということで、鼓膜ごしにステロイドを注射する施術を3度受けた。しかし、改善していないと彼女には思えたので、別の耳鼻科医に相談に行った。MRI を撮っても耳内の異常は発見されず、聴力検査を受けたが以前のものと比較してもらえず、原因不明で今はお手上げとの話だったそうだ。 ネットで調べても良い解決策が見つからず、1日の大半を耳栓をつけたままで過ごしていた。職場では耳栓やヘッドフォンをして いるために、同僚との会話に苦労して、ストレスはたまる一方だった。症状の始まりが彼のキスかもしれないということで、婚約者は協力しようとするのだが、どうしてあげたら良いのか困っていた。とにかく、音の敏感さを少しでも緩和できる方法を調べてみようということで、私に行きついたらしい。

まずは中耳検査をして鼓膜と鼓膜の裏側の状態を調べることにした。以前の2回の聴力検査では、痛みを伴うと思ったのか、中耳検査をしていなかった。状況を知るためには必要不可欠だと説明し、検査をした結果、右の鼓膜は動いていなかった。3度の注射で、鼓膜の中央は傷ついていたが普通に見えた。でも、最初の検査結果と比べて、聴力が少し回復 しているようだった。耳鳴りも左がほとんどなくなっていて、右も少し静かになってい るという。聴覚過敏が深刻な場合は、デバイスを耳に装着するサウンド・リトレーニング・ セラピー(Sound Retraining Therapy)を勧めるのだが、彼女の場合は日も浅いことから、 フィルター入りの特別な耳栓を勧めた。全ての音を遮断せずに、特に大きい音を小さくして会話だけを通し、徐々に外界の音に慣らす ことができる。同時に、リラックスすることと、定期健診を受けるようにも伝えた。というのは、左側の耳鳴りが血液関連に思えたた めだ。出来上がった耳栓を使い始めて1週間、 耳栓はどうかと尋ねたところ、状況は100倍 ほどましになったとうれしそうだった。

今でもその原因は不明だが、ひとつだけアドバイス。耳の近くでキスをするときは優しく圧力をかけないこと。それが、ふたりの仲を長続きさせるコツだ。

ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526