Aさんはとある企業で働いて5年目です。半年ほど前に新しい上司が配属され、それから仕事がやりにくくなったとおっしゃいます。最近は仕事のストレスから常に緊張しているような状態で、体調が優れないそうです。
ストレスの原因は、自分と上司の性格の違いだと思うとのこと。Aさんは、計画を立てて確実に仕事をこなしていくタイプです。そのため、先の予定や目標、プロジェクトの全体像などが分かっているほうが仕事をしやすいといいます。しかし、上司は思いつきで発言・行動する人だそうです。ただ、押しの強さというか、パワーがある人なので、部署の目標や締め切りなどお構いなしに散々周りの人を振り回した後で、無理やり帳尻をあわせることのできる人だといいます。
上司からの指示を待っていても話があちこち飛ぶのは当たり前で、Aさんにとっては要点が分かりにくく感じるといいます。また上司は、「自分が話していることは相手も分かって当然」といった自己中心的、良く言えば自信満々なタイプで、Aさんが指示してもらっていないことを「この前伝えたことができていない」などと言い切ることさえあるそうです。そのため、こちらがきちんとできる限りの仕事をしているにもかかわらず、それが認められる形にならないので、どうしてよいのか分からない、とAさんはおっしゃいます。
最初の頃は、「上司が変わったから仕事のやり方が変わるのも仕方ない。そのうち、上司もうちの部署の仕事に慣れて落ち着くだろう」とAさんは思っていたそうですが、今更上司が変わるとは思えないといいます。だから、Aさんは「なんでXXXなの? どうしてXXしてくれないの?」という自分の中の疑問を、「上司はそういう人なんだ」と諦めるようにしているそうです。この思考回路は、自分の相手に対する期待値を下げることで、期待が裏切られて怒りを覚えたり、悲しくなるといった負の感情をコントロールするには、有効なテクニックだといえます。
しかし、Aさんのストレスはそれだけで改善できるものではありませんでした。人がストレスを感じる時には、不安を感じる時と恐れを感じる時の2パターンがあると言われています。不安は、具体的な形の見えない漠然としたものに対する感情。恐れは具体的な困難に遭遇した時に感じる感情です。例えるなら何が入っているかわからない箱に手をいれる不安と、毒蜘蛛の入った箱に手を入れる恐れです。Aさんには、上司にとって何が正しいのか分からないという不安が常にあり、自分は上司に認めてもらえないという恐れがあったのです。
ストレスを回避するには、この不安と恐れを取り除かなければなりません。そのためには、上司にとっての正しい答え、つまり上司の指示を、上司の言葉をさえぎってでもきちんと確認すること。そして、上司に認めてもらえるようにすること、つまり上司とのコミュニケーションを密にとって、Aさんのことを知ってもらうことがスタート地点として考えられました。押しの強い上司のようなので、Aさんも自信を持って強気に質問・意見していく必要がありそうです。
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