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トランプ後の日米関係と世界

2015年11月14日、大統領選投開票日の1年前から「トランプが本命」と支持する層が多い地区を徹底的に取材した記録が『ルポ トランプ王国/もう一つのアメリカを行く』(金成隆一著、岩波新書)(写真)である。
ここでいう「トランプ王国」とは、共和党の候補者を一人に絞り込む予備選でトランプが圧倒的に勝利した地域をさす。朝日新聞ニューヨーク支局の記者である著者は、「トランプは選挙戦からいずれ脱落する」という声が大半を占めるニューヨーク、ワシントンなどの大都市では見えてこないトランプ支持者層に会うため、オハイオ州、「ラストベルト(Rust Belt: さび付いた工業地帯)」を中心とする地方の「トランプ王国」を見て回る。不法移民が増え続けることに不満をもち、「壁」の建設を本気で望む「もう一つのアメリカ」からの生の声を拾い上げてきた。決して番狂わせではなかったトランプ大統領誕生の背景を読み解く。
『トランプ政権と日本/総力取材!』(NHK取材班著、NHK出版新書)(写真)も、NHK取材班がチームで追いかけた「トランプ現象」取材の記録である。ワシントンと東京から追いかけた複数のNHK取材班による、予備選挙から大統領選当選までの軌跡。トランプ当選の原動力となった「不満のマグマ」とはいったい何だったのかを分析し、トランプ後の日米関係、国際関係の今後を予測する。
『対米従属の謎/どうしたら自立できるか』(松竹伸幸著、平凡社新書)(写真)では、日米同盟信仰といってもおかしくないほどの対米従属状態に陥っている日米関係がなぜ継続してきたかの「謎」にせまる。
選挙戦最中のトランプによる「日本の核武装容認発言」は単なる暴言ではなく、自国の世界戦略を疑い始めたアメリカ国民の「本音」に根ざしたものだと著者は指摘している。トランプ政権の出現を、日米両国ともに防衛問題を「本音」で議論し、確立していくきっかけにすべきである、と提言している。 トランプ大統領の出現は日本にとって「対米自立のチャンスである」としながら、全く別の解決策を論じていくのは、『日米対等/トランプで変わる日本の国防・外交・経済』(藤井厳喜著、祥伝社新書)。対米自立、つまりアメリカと日本が対等になるためには、憲法9条を改正して集団的自衛権をフルに行使できるようにし、アメリカがピンチのときに助けに行けるイギリスやフランスのような「普通の国」になるべきだ、という持論を述べている。
やはり「対米従属と決別せよ」と、アメリカ依存の安全保障から自立、日本の安全保障を再構築するべき、とするのが『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(田原総一朗著、角川新書)。著者は日本の安全保障が矛盾だらけなのは、政治家や官僚だけでなく、国民の多くが「戦争は嫌だ」「戦争のことなど考えたくもない」と強く思うあまり、戦争が起きる事を前提に安全保障を考えてこなかった結果だとしている。
日米関係を語る上で避けては通れないのが沖縄。『沖縄問題/リアリズムの視点から』(高良倉吉編著、中公新書)の編者の高良氏は琉球史を専門とする学者であり、他4名の執筆者は沖縄県庁の職員として、日々理念と現実のはざまに苦しみながら長年実務に取り組んで来た経験をもつ。
1879年に断行された「琉球処分」(沖縄県設置)以降の歴史的経緯をふまえつつ、経済振興と米軍基地問題という二つの大きな課題を中心に、県政の実務がどうだったのかを具体的に記していく。米軍基地問題は「沖縄問題」ではない。この国の安全保障のあり方を問う「日本問題」として国民全体で論議すべき、としている。
『入門 東南アジア近現代史』(岩崎育夫著、講談社現代新書)は、現在11カ国ある東南アジア諸国(ASEAN経済共同体)について、「多様性の中の統一(協調)」をキーワードにその理想と現実を解説する。
史上初の社会主義国家樹立の契機となったロシア革命の勃発から100年。『ロシア革命/破局の8か月』(池田嘉郎著、岩波新書)は、ロシア史のなかでの1917年に注目し、二月革命から十月革命までの「破局の8ヵ月」によって失われたもの、新しく生まれたものは何だったのかをさぐる。

ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から2022年まで北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長を務めた。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。