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AIによって変わる世界

┃ AIによって変わる世界

『AIが変えるお金の未来』
坂井隆之・宮川裕章
+毎日新聞フィンテック取材班(文春新書)

フィンテックの最先端を取材し、その将来を展望するのが『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班著 、文春新書)。フィンテックとは最新の金融とITが結び付いて生まれた、新たな技術革新を表す造語だ。フィンテックは単に新しい金融サービスを生み出すだけではなく、社会のあり方にも変化を及ぼそうとしている点が重要だという。

銀行や保険会社はビジネスモデルの変革を余儀なくされている。AIが顧客の信用力を分析し、スコアによって融資の金利が変わるサービスも始まっている。こうしたサービスでは顧客自身の個人情報そのものが価値を持つことになる。フィンテックの利便性と、その代償となるさまざまなリスクについても検討する。

中国政府が、ビッグデータで国民ひとりひとりの生活を監視していることはよく知られている。顔面を認識できる精密な防犯カメラが全土津々浦々に設営され、SNSの監視も徹底。共産党の脅威となる人物は徹底的にマークされている。『AI監視社会・中国の恐怖』(宮崎正弘著、PHP新書)の著者は、習 近平国家主席を「デジタル皇帝」と呼び、中国は、「人類未踏のデジタル全体主義国家と
なった」としている。

中国が目指すのは、ジョージ・オーウェルが1949年に発表した近未来小説『1984』で描いた、謎の独裁者「ビッグブラザー」が支配する世界のようだ。凄まじいスピードで進化するAIは「フェイクニュース」を発信する能力を持ち、政府が莫大な投資をして進めるAIロボットの開発が行き着くところは、AI搭載兵器である。一方で日本のデジタル社会での「あまりに平和ボケしている」無策ぶり、とりわけサイバー危機への対応の遅さが浮き彫りになっている。

『フェイクニュース』
新しい戦略的戦争兵器
一田和樹(角川新書)

『フェイクニュース/新しい戦略的戦争兵器』(一田和樹著、角川新書)の著者はサイバー関連企業の経営に携わった後、サイバーミステリーを中心に小説の執筆活動を始めたという人物。「フェイクニュース」と言えば、これまで語られてきたのは、「ネット上での捏造されて拡散されたニュースや情報」であり、これに対してはしかるべき機関が「ファクトチェック」を行って真偽判定をする必要や、個人の情報リテラシーを上げることの重要性が言われてきた。

本書で紹介される「フェイクニュース」とは、もっと大規模なものだ。「組織的に世論操作を仕掛けるために広い範囲で大規模に行われるフェイクニュース」。つまり、今や国を挙げて、フェイクニュースを使ったネット世論操作に取り組んでいるのだという。日本もその例外ではない。フェイクニュース=ネット世論操作は、兵器を用いた以外の戦争、「ハイブリッド戦」の枠組みで考える必要がある。ファクトチェック組織を置く、事業者が管理を厳しくする、そういったことで解決できる話ではない。フェイクニュースやネット世論操作は、世界で起きている大きな変化の兆しでしかない、著者はそう警告している。

 

┃ ファーウェイ事件は序章? 緊張感を増す米中関係

『習近平と米中衝突』
「中華帝国」2021年の野望
近藤大介(NHK出版新書)

『習近平と米中衝突/「中華帝国」2021年の野望』(近藤大介著、NHK出版新書)と『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(細川昌彦著、光文社新書)はいずれも、トランプ大統領と習 近平国家主席による米中衝突について予測し、日本のとるべき道を考察している。

『習近平と米中衝突』の著者、近藤氏は、「貿易戦争→先端技術覇権戦争→軍事衝突」へと米中関係がエスカレートしていくのかどうか注視すべき、と指摘している。おそらく2019年夏、中国通信大手企業のファーウェイが5Gスマホを発売する頃が分岐点になるのではないかと著者は予測しているが、本書の刊行後、2018年12月1日に、ファーウェイのCFOがアメリカの指示によりカナダで逮捕されるという事件が起きている。トランプ政権がまずは「ファーウェイ潰し」に全力を挙げてきていることは間違いなさそうだ。

米中関係の緊張がその次の段階「新冷戦」に進むかどうか、緊張の行方を読み解くために、読んでおきたい2冊である。

※2018年11月刊行から(次号につづく)

 

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。