知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。
不法移民一斉検挙
6月、トランプ大統領は、2,000人の不法移民を一斉検挙して強制送還する計画を発表しました。この一斉検挙は、マイアミ、ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス、シカゴなど全米約10都市が対象と発表され、シアトルはリストに含まれていませんでした。また、今回の一斉検挙は、主に国土、国境、米市民への安全を脅かす犯罪者が対象になることも発表されましたが、国外追放の通知が発行されている不法移民も含まれるとのことでした。
対象者の中には、すでにアメリカで何年も暮らし、仕事を持っている人、また米国市民の子どもがいる人が多いため、トランプ大統領の表明後、議員はもちろん、コミュニティーや人権団体は、一斉検挙は家族が引き離される残忍な行為だと声明を出しています。7月14日から開始された一斉検挙の前には、コミュニティーや人権団体は、不法移民に対して、必要のない外出は控えるよう呼びかけました。また、ICE(Immigration and Customs Enforcement)による捜査は、裁判所、店、街角など、基本的には公共の場が多いのですが、ICEのエージェントが自宅に来た場合には、エージェントにIDの提示を求め、裁判所が発行した家宅捜査令状があるかどうか確認するようにも呼びかけました。家宅捜査令状がない場合、ICE エージェントは、あなたの任意なしに家宅捜査をすることはできません。シアトル近辺でこれに関連した動きとしては、7月19日頃に、エベレットのコストコやフレッド・マイヤー付近で、ICEエージェントが車に乗っている人に近付き、窓をノックして話をしようとしているという目撃証言が、ワシントン州移民法弁護士会にもたらされました。
ICEは7月23日に、14日から実施した一斉検挙で身柄を拘束した不法移民は35人と発表。今回は、事前に発表されていたこと、コミュニティーや人権団体などの呼びかけがあったこともあり、トランプ大統領の発言通り2,000人の不法滞在者の多くを検挙するには至りませんでした。ただし、ICEは基本的には逮捕する人物をすでに見極めているため、今後もこのような一斉検挙や個別の立ち入り捜査は続行されると思われます。その後、8月7日に、ミシシッピー州内の複数の農業プロセス工場で、合計約680人の不法移民を検挙したという発表がありましたが、今回の一斉検挙に関しては、これら以外には目立った発表は今のところありません。
移民の権利を守るさまざまな団体では、ICE の立ち入り捜査の対処方法や移民の権利などについて、パンフレットを用意したり、ワークショップを行ったりしていますので、確認すると良いでしょう。ACLU(American Civil Liberties Union)では、公式サイト(www.aclu.org/know-your-rights/immigrants-rights/)にて、さまざまな状況に対応した情報を提供しています。
少し本題から離れますが、関連したことで、移民帰化法上、米国に在留する18歳以上のグリーンカード保持者は、常にグリーンカードを携帯する義務があります。そして、その違反においては、軽犯罪の有罪とされ、100ドルを超えない罰金、または/および30日を超えない収監の罰が課されます。運転免許証と違い、紛失のリスクを考え、グリーンカードを常に携帯することを躊躇する方も多いと思いますが、この法律は、50年以上前から存在していますので、グリーンカードの携帯を常に心がけるべきでしょう。また、アメリカに入国したばかりで、まだグリーンカードが発行されるのを待っている状態の方は、パスポートと移民ビザが永住者としての証明となります。