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「いま」につながる近現代史の視点

|「いま」につながる近現代史の視点

『トラクターの世界史』
人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち
藤原辰史(中公新書)

『トラクターの世界史/人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』(藤原辰史著、中公新書)は、 誕生してまだ100年余りしかないトラクターにより、人類の歴史がいかに大きく変化させられたかを解説していく。 19世紀末、アメリカで誕生したトラクターによって世界中の農作業の風景は一変 していく。さらにトラクターという機械は、 農村だけではなく、社会や国家にさまざまな 変化をもたらした。第一次世界大戦期、戦車の登場の背景には、農業用履帯(キャタピ ラー)トラクターの開発があった。第二次世界大戦中には、各国のトラクター工場は戦車工場に転用された。トラクターと戦車は、2つの顔を持った1つの機械とも言えるほどで、トラクターの研究開発は軍事研究とも表裏一体であったという。日本の水田や狭い農地での作業に対応できるよう、独自の進化を遂げた歩行型トラクター開発秘話など、国内のトラクター開発史も興味深い。

『フランス現代史 隠された記憶』
戦争のタブーを追跡する
宮川裕章(ちくま新書)

第一次世界大戦、第二次世界大戦、アルジェリア戦争の3つの戦争という「負の歴史」に今も苦しみ悩んでいるフランス。『フランス現代史 隠された記憶/戦争のタブーを追跡する』(宮川裕章著、ちくま新書)の著者は新聞記者、特派員として約4年間フランスに滞在した。 著者は、アウシュビッツ強制収容所からの生還者、ノルマンディー上陸作戦に参加していた元兵士など、戦争を経験した人たちの証言を聞くためにフランス各地を訪れる。第一次世界大戦の激戦地跡では、100年前に残された不発弾や大量の兵士の遺体が今も残り、居住ができない村もある。第二次世界大戦中、ユダヤ人の迫害に加担した事実や、アルジェリア植民地支配とその独立戦争での悲劇は、フランス人の心に負い目としてのしかかっている。

戦後から現在までのイギリスのあゆみを振り返るのが『イギリス現代史』(長谷川貴彦 著、岩波新書)。2016年6月、国民投票で「EU離脱」を選択したイギリスの今を理解する上で重要な視点を紹介している。

| 現役アーティストによる入門書

『能』
650年続いた仕掛けとは
安田 登(新潮新書)

織田信長など戦国の武将から江戸時代の武士階級に至るまで、日本を導いたエリートたちを魅了してきた能。彼らはなぜ、能を観るだけではなく、自身も能を学び、謡を謡い、舞を舞っていたのか。『能/650年続いた仕掛けとは』(安田 登著、新潮新書)は、現役の能楽師による、ひと味違う能の入門書。 武士階級という、当時の「トップエリート」たちは能のどんなところに引かれ、何を学んだのか。能のどこがすごいのか、どこをどう観ればよいのかを道案内し、現代人が能にどうアプローチすればよいかという提案をし ている。時代の変化に即して少しずつ対応させてきたことにも能が650年続いてきた秘訣がある。現代人には、現代人なりの見方が可能なのだ。能を観るだけではなく、自分で能の謡や舞を学び、稽古することは、仕事をする上で、あるいは心身の健康にもメリッ トがある、と「能の効能」について説く。

『ピアノの名曲/聴きどころ 弾きどころ』 (イリーナ・メジューエワ著、講談社現代新書) も同様に、現役のピアニストによる名曲の「解説」。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからラヴェルまで、音楽史の流れにそって選んだ有名なピアノ曲を紹介し、「私ならこう弾く」という解釈の一例を紹介する。 ピアニストが、複雑な楽曲をどう解釈し、どう表現しようとしているかの舞台裏を垣間見ることができる。著者はロシア生まれ、1997 年から日本に拠点を置き、演奏や教育活動を続けていて、日本語も堪能だという。本書は対話をまとめたものだが、「難解で文学的」な言葉や専門的な用語を必要以上に使 わず、誰もがわかる普通の日本語で書かれている。譜例が豊富で、楽譜が読める愛好家であ れば鑑賞・演奏にあたって参考になるだろう。

※2017年9月刊行から

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