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「宗教」とは何かという「古くて新しい問い」

| 「宗教」とは何かという「古くて新しい問い」

『聖書、コーラン、仏典』
原典から宗教の本質をさぐる
中村圭志(中公新書)

『聖書、コーラン、仏典/原典から宗教の本質をさぐる』(中村圭志著、中公新書)は、タイトル通り、それぞれの宗教の教えの原点である、「教典」がどのように生まれ、受け継がれてきたかをテーマにしている。キリスト教、イスラム教、仏教、神道など「教典」の共通点と差異について解説していく。

『イスラーム思想を読みとく』(松山洋平著、ちくま新書)は、日本人の多くが「理解が難しい」と感じているイスラームについて、本質的な理解に近づくための1冊。たとえば、イスラームの「穏健派」と「過激派」と呼ばれる人たちの宗教的対立について、私たちはどう理解したらよいか。「暴力を否定し、平和を愛する多数派のムスリム=イスラーム穏健派」、「クルアーンの教えを誤って解釈した、少数派のテロリスト=イスラーム過激派」のように言葉のイメージだけで漠然と考えていては理解できない、両派の宗教的争点について解説。

世界中が「宗教とは何か」という古くて新しい問題を突きつけられるようになりつつある今、「キリスト教」と呼ばれているものの原点を振り返る試みが『キリスト教は「宗教」ではない /自由・平等・博愛の起源と普遍化への系譜』(竹下節子著、中公新書ラクレ)である。著者の住むフランスでは、仏教について、「宗教ではなく哲学であり、イズム(生き方マニュアル)だ」 ととらえている人が多いという。政教分離が徹底しているフランスだが、共和国主義の根幹に「自由・博愛・平等」というキリスト教ルーツのエッセンスを捨てずにいる。さまざまな闘争と過ちを繰り返すことになった「宗教」としてのキリスト教から、普遍性を持つ「イズム」としてのキリスト教本来の教えに戻る動きを、世界史を振り返りながら検討している。

『世界のタブー』
阿門 禮(集英社新書)

『世界のタブー』(阿門 禮著、集英社新書)では、国際化が進む今こそ、挨拶や日常生活、しぐさ、食事などにおける世界各地のさまざまなタブーを「教養」として学んでおくことが必要だと訴える。特に、現代ヨーロッパ最大のタブーとして知られる「ナチス」については、「知らなかった」では済まされないこともある。ドイツ、オーストリアなどの国では、「ナチス時代の旗、マーク、制服、敬礼姿勢、歌、挨拶、言い回し」などを公の場で持ち出すことを法律で禁止している。日本のアイド ルグループが着ていた衣装が、「ナチス・ドイツの制服に酷似している」として海外で批判の声が集まったことも記憶に新しい。

| 女性権力者と「祈り」

『天皇家のお葬式』
大角 修(講談社現代新書)

『天皇家のお葬式』(大角 修著、講談社現代新書)では、明治・大正・昭和の3代に重点を置きながら、古代から現代に至る天皇の葬儀の変遷をたどる。特に、戦後憲法との整合性から、国家行事と宗教的儀式をどう切り離すか、苦肉の策によりさまざまな工夫が行われた昭和天皇の大喪を振り返っておくことは重要だろう。著者は、「天皇の葬儀の形が変化するときは、時代そのものが大きく変化している」という。

『〈女帝〉の日本史』(原 武史著、NHK出版新書)では、著者は、女性天皇や皇后、皇太后、将軍の正室や母など、古代から近代までの「女性権力者=〈女帝〉」を通してみた日本史について、中国や朝鮮の例と比較しながら論じている。著者は、東アジアの中で比較しても日本で女性の政治参加が進まない現状についても触れている。近代以降には、女性の権力を「母性」や「祈り」に矮小化してしまう傾向が見られるという。その結果、女性を権力から遠ざけるという影響を及ぼしているのではないか。著者はそう危惧している。

『光明皇后/平城京にかけた夢と祈り』(瀧浪貞子著、中公新書)は、「慈悲深い信仰心の篤い女性」というイメージと、悪評高い「稀代の女傑」という真逆のイメージでとらえられている光明皇后(光明子)に光を当てている。光明子は病人に薬を与える施薬院や貧しい人々を救う悲田院を建てるなどの慈善活動 をしたことでもよく知られている。

『出羽三山/山岳信仰の歴史を歩く』(岩鼻通明著、岩波新書)は、信仰の山として名高い出羽三山(羽黒山・月山・湯殿山)の長い歴史と伝統文化を紹介している。明治維新の際の神仏分離以降、同じ山で仏教、神道に分かれて儀礼や行事が行われるところも多い。信仰の山として広く支えられて来た山は、外国人観光客を始めとする新たな来訪者の掘り起こしを図るために変化しつつあるが、女人禁制の場所も一部残っている。大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」にも、そのストーリーに山岳信仰が大きくかかわっ ているという著者の指摘は興味深い。

※2017年10月刊行から

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連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。