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「ライバルはAI」時代のキャリア戦略

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。

開かれた皇居に残る最後の禁忌、「御府」

『天皇の戦争宝庫』
知られざる皇居の靖国「御府」
井上 亮(ちくま新書)

かつて皇居内部に設立され、「御府」(ぎょふ)と呼ばれた施設。これまでその存在が隠され、忘れられようとしている皇居内部の「戦死者追悼施設」について、その来歴をまとめているのが、『天皇の戦争宝庫/知られざる皇居の靖国「御府」』(井上 亮著、ちくま新書)である。5つの建物自体は今も存在し、グーグルの衛星画像でも、その姿はきちんと確認することができる。

日清戦争後に、皇室に献上された戦利品の収蔵庫として設立され、後に戦没した軍人・ 軍属の遺影や名簿が置かれるようになった。単なる倉庫ではなく、天皇によって戦没者が深く悼まれているという「物語」が国民に伝えられ、「もうひとつの靖国」という存在にもなった。

著者は、昭和天皇の遺品や著書の一部、写真など昭和史の貴重な資料が、今もそのまま御府のどこかに残されている可能性があるのではないかとしている。皇居に残され封印された、最後の「禁忌」に迫るルポタージュである。

『十五歳の戦争』
陸軍幼年学校「最後の生徒」
西村京太郎(集英社新書)

『十五歳の戦争/陸軍幼年学校「最後の生徒」』(西村京太郎著、集英社新書)は、著作が500冊を超える人気ミステリー作家が、初めて語るという自身の戦争体験。「19歳になったら誰もが徴兵される。ならば、それまでに兵士ではなく将校になっていたほうがトクに違いない」と考え、陸軍のエリート将校を養成するための「東京陸軍幼年学校」に入ったという。昭和20年4月から敗戦の8 月までの4カ月半を、「天皇の軍隊」として過ごした濃密な日々をつづる。

『山本七平の思想/日本教と天皇制の70 年』(東谷 暁著、講談社現代新書)は、1977年 に刊行された『空気の研究』など、死後25年を超えて今もなお著作が読まれ続け、その言葉が生き続けている山本七平の人生とその思想をテーマにしている。「日本人は空気でものごとを決めてしまう」「日本人は水と安全は無料だと思っている」「日本人の宗教は日本教だ」……。こうした山本七平の言葉は今も古びることなく、生き続けている。「日本人とは何者か、日本社会とはいかなるものか」を常に問い続ける人生を送っていた山本七平の生涯。その鋭い言葉を現代の視点で改めて読み直す。

 

「ライバルはAI」時代のキャリア戦略

『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?/キャリア思考と自己責任の罠』(福島 創太著、ちくま新書)は、自身も「若者世代」である1988年生まれの著者が、若者たちが転職するように「煽って」いるのは誰なのか?と若者を中心とした現代のキャリア形成についての問題点を論じている。常に強い意志を持ち努力しながら、「やりたいことを考え」、「選んで」いかなければいけない、そしてその結果は個人の「自己責任」とされる。このような時代に生きる若者世代の価値観、キャリア形成について抱える不安やリスクを理解し、どのような支援が必要なのかを考える。そうした視点が社会全体に必要なのではないかと訴える。

『競争社会の歩き方』
自分の「強み」を見つけるには
大竹文雄(中公新書)

『競争社会の歩き方/自分の「強み」を見つけるには 』(大竹文雄著、中公新書)は、日本ではネガティブな意味でとらえられていることが多い「競争社会」という言葉に注目している。「競争」は自分の強みを見つけ、 社会を活性化する機会でもある、という観点から、さまざまな競争のメリットとデメ リットを、経済学的思考で分析する。

競争が少ないと、自分の本当の長所を知ることができない。下手に自分探しをするよりは、競争にさらされたほうが、自分の長所を知って創意工夫ができるようになるのでは、と著者は指摘する。AIの発達で今の仕事を失っても、自ら新しい仕事をつくり出すことも可能だ。重要なのは、どんな仕事がより価値が高いかを、人間自身が決めることではないか、としている。

『「あなた」という商品を高く売る方法/ キャリア戦略をマーケティングから考える』(永井孝尚著、NHK出版新書)では、「AI に仕事を奪われる時代」を目前にし、「競争を避け、(他人がやっていない)自分の好きなことをする」という逆説的ともいえる競争戦略について持論を語る。

※2017年8月刊行から

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連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。