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移民論争以前にある、外国人労働者をめぐる現実

| 移民論争以前にある、外国人労働者をめぐる現実

2016年、日本の外国人労働者が初めて100万人を超えた。日本の産業は外国人労働者なくしてはもはや成り立たないような状況になっていることは、もう誰の目にも明らかだ。『外国人労働者をどう受け入れるか/「安い労働力」から「戦力」へ』(NHK取材班著、NHK出版新書)は、「外国人労働者 100万人時代へ」などのタイトルで放映されたいくつかの番組に関する取材をもとに生まれている。

日本では、外国からの移民は受け入れないという立場をとるため、労働力として受け入れが可能なのは「留学生」と、期限付きで日本の技術を学ぶためにやってくる「外国人技能実習生」しかない。特に「外国人技能実習生」については、日本人が嫌がる「重労働・低賃金」という単純労働の仕事を押しつけ、さらに賃金も十分に払っていない状況が放置されているとして、悲惨な実態を明らかにする。人口減がより深刻になる中、 移民受け入れの議論をしようとせず、必要な労働力を「労働者」として受け入れない、 奴隷労働を生むような歪んだシステムをいつまで放置しておくのか、と批判する。

『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(香山リカ著、ちくまプリマー新書) は、いじめや差別、そして昨今深刻な問題となっている、ヘイトスピーチについて真正面から語りかける。いじめや差別をなくすためには、まわりにいてそれを見ている第三者の役割が非常に重要だと主張する。「見なかったこと、気づかなかったこと、 なかったこと」では、いじめや差別、ヘイトスピーチはなくならない、と「第三者」である多くの人々に強く訴えかけてくる。

| まだ謎の多い魚、マンボウの生態

『マンボウのひみつ』
澤井悦郎(岩波ジュニア新書)

『マンボウのひみつ』(澤井悦郎著、岩波 ジュニア新書)の著者は、幼い頃から「マンボウが好き」でマンボウを研究することになった。今でこそ日本の多くの水族館で飼育され、生きて泳ぐ姿を目にする機会が増えているが、マンボウは大型で捕獲も飼育も難しく、2000年代より前にはこうした状態は考えられなかったという。

水族館での飼育が可能になってもなお、成熟や産卵についてなどの知見がほとんどない、今もまだ謎の多い魚マンボウ。DNA 解析や「バイオロギング(生きている個体に記録計や発信器をつけてデータを得る手法)」という最先端の研究で少しずつ明らかになりつつある、マンボウの生態を、わかりやすく紹介する。著者の手によるマンボウのイラストが非常に魅力的だ。

故郷の生家に残って両親の面倒を見、その最期を看取った弟が、家を出て東京できままに暮らし、葬儀で帰郷した兄姉から遺産相続を要求される……。今でもよくありそうな「骨肉の争い」を事細かに解説したの が『一茶の相続争い/北国街道柏原宿訴訟始末』(高橋 敏著、岩波新書)である。

『一茶の相続争い』
北国街道柏原宿訴訟始末
高橋 敏(岩波新書)

俳人・小林一茶(本名弥太郎)は、俳諧師として江戸を拠点に諸国をまわり、36年の間故郷の北信濃柏原村から離れていたが、父親の遺産をめぐり、異母弟を相手に「骨肉の争い」を繰り広げる。今さら農作業をやる気もない弥太郎はなぜ故郷に執着し、父の遺産をむしり取ろうとしたのか。父親からの1枚の遺書という「契約文書」がものをいう、柏原村の「近代性」に興味をおぼえたという著者は、当時の北信濃の百姓たちの「読み書き算用」レベルの高さにもふれている。

『ニッポンの奇祭』
小林紀晴(講談社現代新書)

『ニッポンの奇祭』(小林紀晴著、講談社現代新書)は、写真家である著者が、出身地で ある長野県諏訪地方の御柱祭を始め、日本各地の祭りを訪れた写真紀行。ここで取り上げられている祭りは、観光イベントとして多くの人を集める祭りとはひと味違うものが多い。学術的な視点ではなく、著者の感性で選ばれたものだというが、本書では 写真だけではなく文章でも、祭りの前後、日 常と非日常を感じさせている。

※2017年8月刊行から

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連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。