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排除の思想が社会を分断する

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃ 排除の思想が社会を分断する

アメリカの排外主義トランプ時代の源流を探る 浜本隆三平凡社新書

「アメリカ・ファースト」をうたい、自国第一主義を露骨に打ち出すトランプ大統領。過激な排外主義と保護主義の波はアメリカだけにとどまらず、世界中に広がりを見せている。

『アメリカの排外主義/トランプ時代の源流を探る』(浜本隆三著、平凡社新書)では、自国優先の姿勢が世界に広がっている背景を、アメリカの排外運動の歴史から学ぶ。社会に蓄積する不満が歪んだ形で表出すると何が起きるか。アメリカ北東部セーラムで起きた「魔女狩り」、ネイティブ・アメリカンへの迫害、白人至上主義を唱えた秘密結社KKKなどを例に、アメリカ史における排外主義が現代にどうつながっているかを考察する。

 

『リベラルを潰せ/世界を覆う保守ネットワークの正体』
金子夏樹(新潮新書)

同性婚や人工中絶の権利などをめぐり、今、世界は二分されつつある。性的マイノリティーの権利拡大など、多様性や個人の意思を尊重するグループ(リベラル)と、それに断固として反対するグループだ。

国や宗教の枠を超え、反リベラルを旗印に団結している保守ネットワークについて、『リベラルを潰せ/世界を覆う保守ネットワークの正体』(金子夏樹著、新潮新書)はその全貌を明らかにしていく。ロシアのプーチン大統領とトランプ大統領は、この「反リベラル」という価値観で、水面下でつながっている、と著者はいう。

トランプ大統領を熱烈に支持した「世界家族会議」などのキリスト教右派と、世界各国の反リベラル勢力との関係も取材している。価値観をめぐる議論は社会の二分化につながる。LGBTの権利拡大をめぐり社会の対立が深まりつつある日本も、他人事ではないと警鐘を鳴らす。

一方で、アメリカの若い世代を中心に、従来の左右対立の枠組みではとらえきれない新たな層、つまり「オバマにもトランプにも共感しない」立場がある。トランプ政権誕生後のアメリカ社会を取材し、その理念や実情を報告するのが『リバタリアニズム/アメリカを揺るがす自由至上主義』(渡辺 靖著、中公新書)である。

公権力を極限まで排除し、自由の極大化を目指そうとしている彼らの思想とはどのようなものか。自由市場・最小国家・社会的寛容を重んじるリバタリアンの立場、経済的には「保守」で社会的には「リベラル」という、こうしたイデオロギーは「日本には存在しないに等しい」としている。

 

┃ 平成の終わりに 「戦後」の総括

硫黄島国策に翻弄された130年 石原 俊中公新書

『硫黄島/国策に翻弄された130年』(石原 俊著、中公新書)は、日米両軍の地上戦の場としてあまりにも有名な硫黄島の、戦前までの開発史、および戦後ほとんど語られてこなかった軍事占領史を描き出す。

長く無人島だったこの地は、大日本帝国の領有地となった19世紀末から1944年の島民強制疎開まで「南洋」入植地として発展した。硫黄島および北硫黄島の両島合わせて最大で1,200人の定住人口があったことは、あまり知られていない。

戦後、アメリカによる軍事占領下におかれ、1968年には小笠原群島・硫黄列島共に日本に返還されたが、日本政府はそのまま自衛隊による軍事利用を継続させ、2018年末時点でも島民全体が帰郷できない「異常事態」が続いている。硫黄島列島民が強いられてきた犠牲と苦難を多くの人に知って欲しいと著者は訴える。

『ミステリーで読む戦後史』(古橋信孝著、平凡社新書)の著者は、古典文学の研究者。戦後発表された日本のミステリー作品から、10年ごとに時代を振り返る、という文学史的にも新しい試み。

小説、中でも事件や犯罪を題材とするミステリーは、その時代社会が抱える問題や関心を鮮明に描き出してきた。昔の人気ミステリー作品を読めば、今とは異なる当時の価値観を知ることもできるはずだ。本書では、そうした時代の変化をたどるのに最適な作品が多く紹介されている。

『なぜ働き続けられない?/社会と自分の力学』(鹿嶋 敬著、岩波新書)では、男女共同参画という「理念」はどのように描かれ、なぜうまくいかないのか。男は仕事、女は家庭、などといった根強い「固定的な性別役割分担」という分厚い壁をどう乗り越えていけばいいか、統計データや女性たちの声、自身の経験も踏まえて現状の問題提起、未来への提言を記す。

 

※2019年1月刊行から