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特集 酒と料理のペアリング

酒と料理の相性にこだわる「ペアリング」。今回はシアトルで人気の日本料理店「益子」「ニシノ」「もだん」の3軒に、料理の味を最高に引き立てるお酒との組み合わせを聞いてきました。

取材・文:小村侑子、寺島伶菜、小林真似子 写真:小村侑子、寺島伶菜

 

 


 

益子-MASHIKO

ウエストシアトルの大通りに位置する「益子」は、22年の歴史を持つ日本食レストラン。「サステナブル(持続可能)なシーフード」をコンセプトに、バラエティ豊かな日本食を提供している。寿司を握るのはオーナーシェフの佐藤はじめさんだ。活気あふれる店内奧のカウンター席に座れば、ねじりハチマキを締めてキビキビと鮮やかな手さばきで寿司を拵えながら、流暢な英語でお客さんに寿司の解説をする姿が拝める。酒アドバイザーの資格を持つはじめさんに、イチ押しの日本酒とフードのコンビネーションを聞いた。

まずは突き出し、オリンピック半島ポート・アンジェルス産の見事な生ウニ(Uni $16)。ちまたに出回っているウニのほとんどは添加物であるミョウバンが使用されているため、こうしてウニ本来の味を賞味できるのは貴重だ。口に含むと強烈な磯の香りがぶわっと広がる。「このウニは僕の知り合いの漁師が、獲れたてを生のまま運んでくれるんですよ。うちの仕入先はみんな信頼できる人。いいものが入ってきた時だけお客さんに出すんです」と徹底したこだわりを見せる。

 

コクのある甘さがリンクする「渡舟(わたりぶね)」とあん肝のペアリング

いよいよ日本酒の登場だ。茨城県の「渡舟(わたりぶね)純米吟醸(Wataribune small $11、 large $22)」は、幻の酒米と言われる「渡舟」を使って作られた地酒。しっかりとした甘みが特徴のお酒だ。そして茨城県と言えばアンコウの名産地。一緒に食べたいのは「あん肝と水ダコ($18程度)」。ボストン産のアンコウをお店で仕込んで分厚くカットし、ローカルのやわらかな水ダコと合わせた。あん肝のクリーミーでコクのある甘みが、舌の上でふんわりとろける。益子流オススメの食べ方は、食べ物がほんの少しだけ口の中に残っているタイミングでお酒をグビッと一杯。……すると日本酒の甘さがあん肝の甘さをふんわりと包んで、信じられないほどふくよかな後味に! これこそまさにペアリング、である。

 

ボリューム感あふれる「雪の茅舎(ゆきのぼうしゃ)」と酒蒸しのペアリング

秋田県の地酒「雪の茅舎(ゆきのぼうしゃ)山廃純米(Yukino Bosha Yamahai small $9、 large $18)」は、山廃(やまはい)と呼ばれる昔ながらの手間暇をかけた製法で作られた日本酒だ。これには「アサリと松茸の酒蒸し($20程度)」を合わせてみよう。ぷりりっとした肉厚のアサリと旬の松茸は、酒蒸し料理のメンバーとしてはこれ以上ないキャスティングではないか。酒にバターとしょうゆをミックスした特製スープで、最高の食材をぜいたくに蒸す。アサリの出汁と松茸の香りがスープにさらなる旨みをプラスし、どこまでも深いコクのある味わい。力強くボリュームのある日本酒との相性はバッチリだ。

 

おふくろの味「惣誉(そうほまれ)」と粕汁のペアリング

「これは他ではなかなか飲めない、益子らしいお酒だね」と言いながら出してくれたのは「惣誉(そうほまれ)特別純米(Souhomare small $8、 large $16)」。
はじめさんの出身地である栃木県の地酒だ。温度約40度とぬるめにあたためた酒を、陶器のとっくりとおちょこでいただく。合わせて食べたいのが「粕汁($12程度)」。栃木県の郷土料理しもつかれをアレンジしたものだ。しもつかれというと正月の残りのシャケの頭を丸ごと使って作るユニークな家庭料理だが、益子の粕汁は何とも上品な味わい。サーモンを骨や皮ごと鍋に入れて濃厚な出汁をとり、ニンジンやダイコン、豆腐、マイタケを具にしている。身体も心もあたたまるアットホームな粕汁に、素朴な味わいの日本酒が意気投合。「ぬる燗でつけたお酒が冷めていくと、少しずつ味が変わるでしょ。温度の変化を楽しめるのが日本酒のいいところなの。料理も酒と一緒に冷めていく。こんなことができるのは日本酒だけなんです」

 

口直しにさっぱり「出羽鶴(でわつる)」とナマズのペアリング

ラストを飾るお酒は、秋田県の「出羽鶴(でわつる)純米 にごり酒(Dewatsuru Nigori small $7、 large $14)」。合わせる「ナマズの握り(Namazu Nigiri $7)」は、絶滅危惧種であるウナギの代用としてナマズを使った寿司。魚介の保護を念頭に入れながら、ローカルのフレッシュな素材を仕入れるのがはじめさんのサステナブルなスタイルだ。銀ダラの出汁を1週間煮詰めた照り焼きソースは、とろりとコクがあるのに油っぽさはない。ソースをからめたナマズの淡白さと、ほのかに甘いにごり酒の軽い飲み口がピッタリ。デザート代わりにさらりと楽しみたい。

オーナーシェフの佐藤はじめさん
オーナーシェフの佐藤はじめさん

「最近は辛口の大吟醸、とにかくすっきりしたお酒がブーム。だけど寒い季節はやっぱり甘いお酒でリラックスしたいよね」とはじめさんは言う。たしかに今日いただいたお酒はいずれもやさしい米の甘みが感じられ、飲むほどに気持ちがホッと落ち着いた。益子の日本酒はスタッフ全員が吟味して納得したものだけを提供しているのだとか。何もかもこだわり抜いた同店では、お酒も料理もメニューに載っていない逸品ばかり。自分であれこれ悩むよりも、シェフに全てお任せしてみては。

益子-MASHIKO

4725 California Ave. SW Seattle 98116
営業時間:日〜木:5:03pm-9:00pm
金・土: 5:03pm-10:00pm
☎206-935-4339
mashikorestaurant.com

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ニシノ-NISHINO

シアトル日本庭園にほど近い「ニシノ」は、家族や恋人など大切な人との特別な日に、ちょっと奮発して行きたいレストランだ。20年以上の歴史を持つ同店では、オーナーシェフの西野達也さんとアルコールを担当する斎藤祐一さんの息の合ったコンビで、それぞれの料理にぴったりなお酒をペアリングしてもらえる。

八海山とカンパチのペアリング

ポン酢で味付けされた「カンパチの薄造り(Kampachi Usuzukuri $16.50)」は脂がしっかりのって、この季節ならでは。新潟の清酒「八海山 特別本醸造(Hakkaisan 青竹とっくり$47)」の冷酒と一緒にいただく。やはり刺身には日本酒が一番。京都から取り寄せた青竹のとっくりとおちょこで、竹林の香りのする冷酒を味わうのもオツなものだ。

 

オーストリア産白ワインとメキシコ風タルタルのペアリング

鮮度の高いマグロのタルタルに、細かく刻んだショウガのサルサソースをかけた「ビンチョウマグロのタルタル(Albacore Tuna Tartare $16.50)」はあっさりとした口当たり。トッピングされた自家製タロイモチップスですくい取って食べるとメキシカンな雰囲気に。

オーストリア産白ワインの「グリューナー・フェルトリーナー・レステラッセン(Lossterrassen Gruner Veltliner グラス$13)」は、フルーティながらもピリッとした辛味が特徴。オーストリアで最もポピュラーなぶどうが使用されている。ワインのスパイシーさはエスニックテイストのマグロにベストマッチ!

 

オレゴンの赤ワインとフォアグラ、マグロのペアリング

赤ワインには肉料理と思われがちだが、日本食レストランである同店では、ぜひ「フォアグラとマグロのタタキ(Foie Gras and Seared Tuna $19.50)」で合わせたい。シイタケのソテーの上に新鮮なマグロと生のフォアグラが重なって、まるでステーキのよう。しょうゆとみりんで和風にアレンジされたソースに懐かしい思いをかき立てられる。ぜいたくにも一口でペロリと平らげてしまった。

 

オレゴン州産の「ブランドバーグ・ピノ・ノワール(Brandborg Pinot Noir グラス$14)」は、深い土の香りを持った上質な赤ワイン。ピノ・ノワール特有の酸味が、食材の複雑な旨みと心地よく絡み合う。食後の余韻に浸りながらグラスが進むこと間違いなし。
今回のメニューは全てアラカルトでオーダー可能。同店はコース料理を楽しめるのはもちろん、カウンターでは目の前で寿司を握ってもらえる。

左からアルコール担当の斎藤祐一さんオーナーシェフの西野達也さん

ニシノ-NISHINO

3130 E. Madison St., Seattle, WA 98112
営業時間:月〜土5:30pm〜10pm
営業時間:日5pm〜9:30pm
☎206-322-5800
www.nishinorestaurant.com

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もだん-MODERN

日本食とデザートの店「もだん」は、近所の料理屋さんという言葉がよく似合う。フィニーリッジの個性豊かなショップやカフェが並ぶ通りにある、爽やかな青い看板が目印だ。心遣いと優しさが詰まったアットホームな雰囲気で、訪れるのは地元住民が多い。同店は寿司を中心とした和食に、手作りスイーツやアルコールが揃い、ランチやディナーを楽しめる。店内に入ると、オーナーのせつこさんが優しい笑顔で出迎えてくれた。思わず「ただいま」と言いたくなるほど居心地がよい。

 

サムライの酒とシーフードのペアリング

まずは同店の日本酒メニューから、500年近い歴史を持つ「剣菱(6oz $13.50、 12oz $24)」をいただいた。日本の三大酒処である兵庫県の灘五郷に蔵元があり、灘の男酒とも呼ばれる。「サムライの酒としてシアトルの人にも人気なんですよ」とせつこさん。口に含んだ瞬間、濃厚な香りと芳醇な米の味わいが広がる。しっかりとした旨みが特徴だ。

一緒にいただいたのは、ハッピーアワー限定メニューの「ビンチョウマグロのタタキ(Albacore tataki $5)」。ビンチョウマグロは炙り加減が絶妙で、プリッと引き締まった独特の食感だ。自家製ポン酢のレモンの風味と、上に添えられたショウガが程よく効いてさっぱりとした味わい。力強いながらも柔らかさのある剣菱が、料理の旨みを引き立てている。

続いての「レインボー・ポキ」(Rainbow Poke $10/ハッピーアワー $5)は、サーモン、ハマチ、マグロ、ビンチョウマグロの4種類の魚を使った贅沢な一品。女性にうれしい海藻やキュウリ、スプリングミックスが自家製ポキソースと絡む。舌の上でとろけるシーフードとお酒がまろやかに馴染む。

 

白ワインと抹茶のケーキのペアリング

最後に同店シグネチャースイーツの「抹茶ロールケーキ(Green tea Roll Cake $4.80)」をハウスワインの「シャルドネ(5oz $5/ハッピーアワー$4)」と合わせて。京都丸久小山園の抹茶を使用したスポンジケーキは、もっちりフワフワで何ともクセになる。中のきめ細かな生クリームと粒あんは、舌触りよくほんのり優しい甘さ。フルーティーで清々しいシャルドネと相性抜群だ。こちらのケーキはANAのビジネスクラスでも提供されている。

ワインと楽しむデザートは至福の瞬間!
ワインと楽しむデザートは至福の瞬間
優しい笑顔が素敵なオーナーのせつ子さん
優しい笑顔が素敵なオーナーのせつ子さん

同店のお酒はすべて、料理の味を邪魔しないかどうかを基準に、せつこさん自らが試飲しセレクトしたもの。日本酒は冷または燗を好みでオーダーできる。素材の味を活かしたおいしい料理とお酒。カウンターでゆっくりと楽しむもよし。テラス席のヒーターで暖まりながら、家族や友達などのグループでワイワイ語らうもよし。ディナーメニューの一部がスモールプレートでおトクに味わえるハッピーアワー(4:30pm-6:30pm)もおすすめ。

★人気のクリスマスケーキは12月初めから予約受付開始。モンブランロール($45)、抹茶ロール($40)、イチゴロール($40)、3種のロールが限定販売されるので注文はお早めに。★

もだん-MODERN

6108 Phinney ave N, Seattle, WA 98103
営業時間:火~日 ランチ 11:30am-2:30pm
ディナー 4:30pm-9pm
ハッピーアワー 4:30pm-6:30pm
☎206-420-4088
www.modern-seattle.com
info@modern-seattle.com

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