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コロナ禍の2年間がもたらした影響~もうひとつのパンデミック~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

コロナ禍の2年間がもたらした影響~もうひとつのパンデミック~

新型コロナのアウトブレイクから2年が経ちました。CDC(米疫病対策センター)によれば、アメリカの現在の感染死者数は95万人を超え、第二次世界大戦での米軍死者数(約40万人)の2倍以上を記録、保護者を失った子どもは14万人に上るなど、社会に極めて深刻な爪痕を残しています。「コロナ疲れ」や「コロナうつ」と言われるメンタルへの影響も大きく、世界では2020年の1年間でうつ病患者が5,300万人、不安障害の患者が7,600万人も増加し、中でも若者と女性への影響が深刻化しています。特に子どもたちは学校閉鎖が長引くにつれ、発達や学習の遅れ、孤独感や絶望感などの精神状態の悪化、自殺の増加が見られました。改めて、コロナ禍が子どもにもたらした影響を総括してみたいと思います。

今年1月に発表された、アメリカを含む11カ国における未成年者約8万人と保護者2万人近くを対象にした系統的分析では、2020年2月〜7月の期間に18%〜60%に及ぶ未成年者が強いストレスを感じ、不安やうつ症状を発症したとのこと。食生活や睡眠リズムも狂い、スマホやゲーム時間が増え、その逆にスポーツや運動時間が減少、肥満や身体的不調の訴えが増加しました。

現場で感じるのは、新型コロナ以前から子どもたちの精神状態は年々悪化しており、それにコロナという巨大なストレスがのしかかり、対応できない子どもたちが急増したということです。社会的隔離のストレスに加え、親のイライラも重なり親子げんかが絶えず、学校の長期閉鎖により逃げ場を失った子どもたちの心身に不調が出るのは当然の結果とも言えます。CDCの調査でも、2020年3月〜10月にかけて精神的症状の悪化から救急病院に運ばれた5〜11歳の子どもはコロナ前の2019年同時期と比べて24%増加、12〜17歳では31%も増え、2021年2月から3月に自殺を試みた12〜17歳の女子は2019年同時期と比べて1.5倍に跳ね上がりました。

現在、アメリカのティーンの4人に1人がうつ症状、5人に1人が不安症状を持つ状態にあり、昨年12月には米公衆衛生局が特例勧告を出し、精神状態の悪化を「もうひとつのパンデミック」と捉え、メンタルケアを最優先することを訴えています。子どもの希死念慮に親は気付かず、SOSのサインを出した時にはかなり悪化していることがほとんどです。「うちの子に限って」と思わず、親は注意深く子どもを見守る必要があります。

また、就学前の乳幼児に関しては発達の遅れが憂慮されています。乳幼児は口元を含む顔全体を見ながら感情を読み取り、言葉を発する時の口の動きを真似して言語や感情表現を身に付けていきます。「マスク保育」以降、表情の乏しさや言葉の遅れが指摘されており、保育現場では透明マスクを導入するなど対策を取っていますが、コロナ禍の保育が今後の発達にどういう影響を与えるかは未知数です。

いずれにせよ、子どもは大人の生き様や社会のゆがみがいちばん色濃く出る、私たちを映し出す鏡です。若年層では、コロナによる死者よりも自死による死者のほうが多く、そこに至らないまでも精神的に追い詰められ苦しんでいる子どもたちが膨大な数に上ることを、私たちは重く受け止めるべきです。「子どものため」にやっていることが、逆に彼らを精神的に追い詰める結果にならないよう、何が大切かを今一度立ち止まって自問する必要があるでしょう。

たとえば、親がコロナへの不満ばかり言っていたら、子どもも同じように「コロナのせい」と環境や否定的な側面にフォーカスする思考パターンになり、「コロナさえなくなれば幸せになるのに」と自分の幸せを外部に委ねる考えを身に付けてしまいます。まずは大人が不満を言うのを止め、「自分にできること」に焦点を合わせ、子どもの話をただ聞いてあげてください。「でもそれはね」と言うのをちょっと我慢して、気持ちに寄り添ってあげるだけで、子どもたちは無力感や絶望感から脱して自分自身の力を取り戻していきます。 親が愛や感謝といった豊かな気持ちを子どもと共有することで、子どもに希望の種をたくさん分け与えていきたいものですね。

子育てサポート・グループのお知らせ
「シアトル子育て広場」
第1回 3月17日(木)5:30pm~6:30pm

参加費無料

本コラム執筆者の長野弘子さんの主宰で、子育ての悩みやコツをオンラインでシェアし合う交流の場が新たに誕生します。申し込み・詳細はウェブサイト(www.lifefulcounseling.com/support-group.html)にて。

 

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

(参考記事)

https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2788069

https://www.physiciansweekly.com/aap-issues-guidance-for-childrens-emotional-needs-during-covid-19

https://tinyurl.com/yc4rv93s

https://publications.aap.org/aapnews/news/17718

https://www.additudemag.com/effects-of-covid-19-adhd-youth/

https://www.christianpost.com/news/more-youth-are-dying-of-suicide-overdose-than-covid-19-during-pandemic-cdc-director.html

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com