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もし子どもがポルノを見ていたら? ~急増するオンライン・ポルノ依存~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

もし子どもがポルノを見ていたら?
~急増するオンライン・ポルノ依存~

インターネット上のコンテンツの実に12%近くがポルノ・コンテンツであることをご存じですか? ほとんどのポルノ・サイトは年齢制限が自己申告なので、誰でも簡単にポルノを閲覧することができます。10代の若者の約70%が、少なくとも週に1回はポルノを閲覧しており、ポルノを最初に見る平均年齢は9~13歳と低年齢化しています。

ティーンになると性に興味が湧くのは自然なことですが、大量のポルノ・コンテンツは発達段階の脳にとって刺激が強い分、依存症になりやすいと言われます。また、性に対する否定的な価値観や行動パターンが生み出されることがあります。オンライン・ポルノが青少年の心と体にどんな影響を与えるのか、そして親はどう対処すればいいかを探ってみましょう。

アメリカの性に関する学術誌で2023年6月に発表された調査により、上位3位に当たるポルノ・サイトは、AmazonやNetflix、Yahoo、TikTokなどの有名サイトよりも月間訪問数が多いことが明らかになりました。たとえば、Xvideosの訪問数は、Amazonより7億回、TikTokより9億回、Netflixより15億回多かったそうです。

ポルノ視聴はコロナ禍で急増し、「ポルノデミック」とも呼ばれています。ポルノを常習的に視聴すると耐性がついて、女性蔑視や暴力的な描写、小児性愛その他の過激なコンテンツを求めるようになっていきます。そのため、通常の性行為では興奮できない勃起不全(ED)などの脱感作(感覚に慣れて反応しないこと)も起きやすいようです。

複数の研究で、ポルノを一定期間視聴した場合、ポルノを見なかった人に比べて、男性では女性に対する冷淡さが増し、レイプをそれほど重大な罪ではないと考え、夫婦以外の性行為や過激なプレイに寛容な傾向があるとのこと。さらに、結婚は時代遅れとする人がポルノを見なかった人の2倍になり、男女共に子どもを持ちたい欲求(女性では娘を持ちたい欲求)が減少したと報告されました。

脳が未発達の子どもへの影響はさらに大きいと懸念されます。依存症の難しい点は、最初は「快感」を求めて行為を繰り返すのですが、耐性ができてエスカレートし、行為をやめると「不快」な離脱症状に苦しめられることです。最後には、快感はなくただ不快を抑えるために依存するように。以下のような兆候が見られるなら、子どもがオンライン・ポルノに依存している可能性は高いでしょう。

■ ポルノ閲覧を止めたくても止められない
■ より強い刺激のものを次々と求める
■ 成績が落ち、友人関係や学校生活に悪影響が出る
■ これまで打ち込んでいた趣味や活動への興味をなくす
■ 気分のいらつきや落ち込みを感じる
■ 自分とは年齢が大きく離れた大人や子どもに性的な関心を持つ
■ 性的な画像やテキストを頻繁に送受信している

それでは、私たちはどのようにして子どもを守れば良いのでしょうか? すぐにできることは、デジタル機器全てにペアレンタル・コントロールを付けること。そして、子どもが見ているコンテンツに興味を持ち、それがどんなものかを確認しましょう。

子どもがポルノを見ていることを知っても、怒るのではなく、まずは落ち着いて話を聞いてください。どのようにしてサイトを知ったのか、どんな内容でどう思ったかなどを聞き、話し合いの場とします。そして、子どもの話を十分に聞いたあとで、ポルノは大人向けのものであり子ども向けに作られたものではないこと、ポルノに登場する行為は演技で実際とはかけ離れたものであること、出てくる人の体型も現実を反映していないことを教えましょう。そのうえで、相手を大事にする気持ちや関係性が最も大切で、相手の嫌がることは絶対にしてはいけないということ、また、同意の必要性、性病のリスク、事件に巻き込まれる危険性、避妊の仕方などについても伝えるようにします。

ポルノを含め、性的なことに関して親がオープンに話すほど、子どもは性について適切な判断をする可能性が高まります。バレンタインデーを前に、性に関して親子で話してみるのはいかがでしょうか。

参考文献・リンク


(1)『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学
by ゲーリー・ウィルソン (著), 山形浩生 (翻訳) Format: Kindle Edition

(2) But Do Porn Sites Get More Traffic than TikTok, OpenAI, and Zoom?
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00224499.2023.2220690

(3) The Impact of Pornography on Children
https://acpeds.org/position-statements/the-impact-of-pornography-on-children

(4) Pornography Use Among Young Adults in the United States
https://ballardbrief.byu.edu/issue-briefs/pornography-use-among-young-adults-in-the-united-states

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com