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家族関係を改善するには〜不安感を次世代に引き継がないために〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

家族関係を改善するには 
〜不安感を次世代に引き継がないために〜

「少しくらい手伝ってくれてもいいのに」「言わなくても分かってほしい」、家事や育児に追われ、1日が終わるとグッタリ。毎日が忙しく、気づけば会話は業務連絡だけになっている。そんな家庭は、子育て世代では決して珍しくありません。家事や育児の負担がどちらか一方に偏ると、夫婦関係や親子関係にすれ違いが生まれやすくなります。

近年の研究では、家庭内の協力関係や夫婦関係の質が子どもの心理的発達に強く影響することが明らかになっています。心理学者ジョン・ゴットマンの長期研究によると、夫婦が協力して育児に関わる家庭では、子どもの情緒は安定し、社会性も育ちやすい傾向があります。その一方で、対立や敵意の多い家庭では、子どものストレスホルモンが慢性的に高くなり、その後の追跡調査でも情緒面や行動面での問題を抱えやすくなることが報告されています。興味深いのは、「結婚しているかどうか」よりも「親の精神的な安定」の方が、子どもに強く影響する点です。たとえ離婚していても、親が満足度の高い生活を送っていれば、関係性の悪い家庭で育つ子どもよりも心理的に健康であることが示されています。つまり子どもにとって大切なのは、家族の形ではなく、「安心できる家庭環境」なのです。

家族関係を理解するうえで役立つのが、心理学者マレー・ボーエンの「家族システム理論」です。この理論では、家族を単なる個人の集まりではなく、相互に影響し合う一つのシステムとして捉えます。そして、個人の問題は、家族全体のコミュニケーションや関係性から生じるものと考えます。さらに、「不安感」を中心概念に置き、誰かひとりの不安感は家族全員に広がり、多世代にわたって引き継がれると説きました。

機能不全に陥った家族では、役割の偏りが起こりやすくなります。たとえば、親がもう一方の親の悪口を子どもに伝えたり、「いい子」「問題児」といったレッテルで役割を固定したりすることがあります。その結果、誰かが過剰な負担を引き受けることで、ゆがんだ形のまま家族のバランスが保たれてしまうのです。

さらに、子どもの問題行動や配偶者の非協力的な態度を強く責めれば責めるほど、その行動が助長することがあります。これは、家族全体が無意識のうちにバランスを取ろうとして、対照的な役割を生み出してしまうためです。つまり、問題は個人の気質や性格ではなく、家族全体の関係性やパターンから生まれている場合が多いのです。

それでは、健全で機能的な家族にはどのような特徴があるのでしょうか。多くの研究で、次のような共通点が見られます。

•感情を安心して共有できる雰囲気がある

•お互いの個性や境界線を尊重している

•問題に対して家族全体で協力して向き合う

家庭は「誰かが我慢する場所」ではなく、協力して「支え合う場所」なのです。そのためにできる具体的な方法を三つ紹介します。

1)感情を言葉にする
日常の会話が業務連絡になりがちなときこそ、「今日は大変だったね」「うれしかったよ」といった感情の共有を意識しましょう。感情を伝え合うことで、心理的な安心感が育まれます。

2)ニーズを明確に伝える
「察してほしい」という期待は、すれ違いのもとになります。「少し休みたい」「話を聞いてほしい」といったニーズを具体的に言葉にすることが大切です。

3)公平性を見直す
家事や育児は見えにくいため、不公平が生まれやすいものです。家事の見える化や役割の見直し、忙しいときなど状況に応じた柔軟な助け合いが、心理的な負担を軽くします。

家族関係を良くするうえで大切なのは、「誰が正しいか、間違っているか」を決めることではありません。同じチームとしてどう支え合えるかを考えることです。お互いの気持ちを共有し、必要なことを言葉にしながら、無理のない協力関係を築いていく。その積み重ねが夫婦の信頼を深め、子どもにとって安心できる温かい家庭につながります。完璧を目指す必要はありません。対話と協力を重ねながら、それぞれが自分らしくいられる、そんなほっとできる場所になっていくといいですね。


 
参考文献
長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com