米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
H-1B ビザに関する最新情報
アメリカの就労ビザ「H-1Bビザ」は、特定の分野での特殊技術や知識が必要な専門職に就く外国人労働者が対象となります。このビザを取得するためには、該当分野での学士号、または同程度の実務経験が求められます。
会計年度 (10月1日から翌年9月30日まで)の新規H-1Bビザ発給数には上限があり、これを「CAP」と呼びます。現在、CAPは一般枠が6万5,000件、特別枠 (アメリカの大学で修士号以上の学位を取得した人) が2万件と定められています。移民局は、2024年12月2日、たった2カ月で2025会計年度の一般枠と特別枠の両方で上限に達したことを発表しました。
H-1Bビザの申請は、スポンサー企業が電子登録システムに申請を希望する外国人労働者を事前登録し、当選した場合にのみ提出ができることになっています。その登録者数は、前年度に75万8,994件あったものの、2025会計年度には47万342件と大幅に減少したことも発表されました。
なお、職種により上限に含まれない (Cap Exempt) 申請や、現在H-1Bビザを所持している労働者による延長申請、雇用条件変更の申請、雇用主の変更、追加同時申請などは引き続き受理されます。
また、2026会計年度からは登録料金が現在の10ドルから215ドルに引き上げられる予定です。さらに、スポンサー企業は提供した情報が真実であること、実際に正当な採用通知が存在すること、また、当選確率を不当に高めるために第三者や組織と協力して不正な行為を行っていないことを誓約しなければなりません。不正行為が発覚した場合、申請は無効となり、すでに認可されている場合でも取り消されます。さらに、虚偽の宣誓を提出した個人または団体を刑事訴追のため連邦司法当局へ照会することもあります。2025会計年度の登録数の減少は、システムが効果的に働いていることを示す証拠かもしれません。
移民局は2024年12月17日、アメリカ企業が高度なスキルを持つ外国人労働者を採用しやすくするよう、H-1Bプログラムの近代化を発表しました。
この変更には、高度なスキルを持つ外国人労働者の雇用が、アメリカのイノベーションや経済発展などに利益をもたらすこと、また、アメリカ企業の負担を軽減し、ニーズを満たすことを目的としたプログラムの効率化や手続きの合理化が盛り込まれています。一方で、雇用先への現地訪問や書類要件、コンプライアンスの強化も図られています。これらの施策は、バイデン政権の重要なレガシーとして位置づけられています。
新ルールには、いくつかのポジティブな点が含まれています。まず、すでに認可された申請は迅速に処理されるようになります。これにより、以前の申請に大きな誤りがあったことが発覚した場合や、スポンサーや外国人労働者、労働条件などに大きな変更がある場合を除いて、延長申請時には以前の認可が尊重されます。外国人労働者の学士号は役職に「直接関連」している学位であれば申請が可能です。新ルールにおいて専門職の定義が改訂され、「直接関連」は、外国人労働者の学位と役職が論理的に関連していることを意味し、完全な一致は求められません。論理的に関連している限り、雇用主は関連性のあるさまざまな分野の学位のフィールドを受け入れられるようになります。さらに、条件に制限はありますが起業家の自己申請も認められます。
また、F-1ビザを持つ学生が、H-1Bへの更を申請する場合、審査期間中のステータスと就労許可の失効を避けるため、最長6カ月のステータスと就労許可の延長が認められるようになります。
新ルールは2025年1月17日に施行されました。それ以前に受理された申請については、2024年4月1日版の申請用紙(Form I-129)も使用可能ですが、2025年1月17日以降に受理される申請用紙は最新版でなければなりません。旧版の申請用紙を受け入れる猶予措置は設けられていないため、ご注意ください。